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大航海時代の軌跡を辿り
"人生の意味"を問う
~ミゲル・ゴンサルヴェス・メンデス監督インタビュー

Info | 2015.06.17

1492年にコロンブスによってアメリカ大陸が"発見"され、
1522年にマゼラン艦隊が世界一周を果たし、
"Age of Discovery"と呼ばれた大航海時代。

実はその時代の立役者となったポルトガル人が、開拓の歴史とともに
世界各地に残してきたとされる「FAP」と呼ばれる難病がある。
そんな大航海時代を由来とする病気を抱えたブラジル人青年を主人公にした、
ドキュメンタリー映画『The Meaning of Life』が現在制作されている。

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映画はジョバンニがテレビを見ているところからはじまる。
テレビ画面には、大航海時代を牽引したポルトガル人航海士たちを
英雄として紹介するドキュメンタリーが流れていた。
彼は複雑な想いでその映像を見て、大航海時代によってもたらされたかもしれない
自分の病や、同じ病気で苦しむ世界の人々を思う。
そこでジョバンニは祖先の航海者たちと同じ道を辿って、
"人生の意味"を探す旅に出ようと心に決める......。

今回、この映画の撮影のために来日していた
ミゲル・ゴンサルヴェス・メンデス監督に話を聞いた。

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--------なぜ難病を抱えるジョバンニを撮影しようと思ったのですか?
「これまで撮ってきた映画は、いつも"死"をテーマにしてきたんだ。ポルトガル語圏で初めてノーベル文学賞を受賞した作家ジョゼ・サラマーゴの最晩年に密着した『ジョゼとピラール』だったり。人間って普段は眠った状態にいて、死を意識したときにはじめて動き出す生き物だと思うんだ。死は、結婚、友人、仕事......そうした人生で積み重ねてきたものと切り離す力がある。だから死をテーマにした映画を見てもらうことで、多くの人に『何かするには"今"動くしかない』ということに気づいてほしい。ジョバンニも病気というハンデを抱えている。そんな彼が世界を旅することで何を感じ取るのか、それを映していきたい」

--------旅をしながら映画を撮影することの苦労は何ですか?
「大変なことしかないね。ドキュメンタリーを撮影すること自体、こちらが想定していても実際は何が撮れるかはわからない難しさがある。さらに旅をすることで、常に何が起こるかわからない状況に置かれるわけだからね。なにより、映画を撮っているなかで一番気をつけなきゃいけないのが、ジョバンニもスタッフも含めて疲弊すること。撮りたいのは、ジョバンニが旅の中で初めて出会うものへの"驚き"や"心の動き"。これは"発見"の物語でもあるから。だからあまりに疲労ばかりしていると、新しい世界の"発見"ができなくなってしまう。まあ、常に移動しているから、みんな疲れきっているけど(笑)」

--------今回の撮影は大航海時代のルートを辿っていますね。その移動手段にもこだわっていると聞きました。
「できるだけ大航海時代と同じように旅をしたくて、飛行機に一切乗らずに海路と陸路を使っている。ここまでもリスボンからインドまで船で移動して、ネパールから中国は陸路で北上。そこから船で日本入りしたんだ。飛行機なら一瞬だけど、海や陸を通り過ぎながら移動したほうが、文化や空気の移り変わりがわかるからね。この旅では、飛行機で2時間のところを2日かけて移動したりもしているよ。大変だけど良いこともある。時間をかけて移動するから、僕らはこの旅でジェットラグに悩まされたことがないんだ(笑)。でも19世紀までは、これがスタンダードな旅の手段だったわけだからね」

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--------日本ではどこで撮影をするのですか?
「東京から入って、逗子へ。あとはFAP患者のいる熊本のほか、長崎や種子島へ。そしてまた東京に戻ってくるよ。逗子では逗子海岸映画祭で撮影もしたんだ。ファド歌手の津森久美子さんに日本語でファドを歌ってもらい、ポルトガル生まれの唄が異国でも形を変えて歌われるのをジョバンニに聞いてもらった。興味深いシーンが撮れたと思うよ」

--------ポルトガル出身の監督自身、旅のキーとなる"大航海時代"をどう思っていますか?
「人類史の中でもグローバリゼーションの第一歩として大きな意味をもっているし、未知のルートを見いだしたポルトガルの船乗りたちの勇気は感心する。日本に最初に西洋文化を持ち込んだのもポルトガル人だったしね。もちろん植民地問題や彼の病気も考えると、単純には語れない部分もある。ただ良い悪いは別として、大航海時代においてポルトガルがユニークだったと思えるのは、混血を推奨していたこと。実は小国であるポルトガルが人口を増やして勢力を拡大させるために、異国に入植したときは現地人との結婚を奨励する法令もあったくらいなんだ。だから、他のヨーロッパの植民地支配とも少し性質が違う。ジョバンニの出身地でもあるブラジルを例にとれば、ポルトガルと原住民の混血が緩やかにおこなわれたこともあって、いまではアフリカン、アジアンも含めて、様々な文化や民族が混じり合ってひとつの国を作っている。そんなミクスカルチャーの中で育ってきたジョバンニだからこそ、人類のグローバリゼーションの足跡を辿って、異世界との出会いを語る資格もあると思うんだ。ジョバンニはヨーロッパでもアジアでもない立場で、世界を見ることができるからね」

--------まだ制作中ですが、この映画を通して何を観客に感じとってほしいですか?
「仮の題名として掲げているように"人生の意味"を問う映画にしたい。その答えを直接的に提示しようとは思ってないけど、病気を抱えながらも旅をするジョバンニを見て『では、自分は今、いったい何をしているのか』を考えてもらいたい。人生の意味を問うことは、人類共通のテーマ。だからジョバニの旅は世界を周る必要があるし、世界と関わる必要があった。この映画では、ジョバンニ以外にも第一線で活躍する音楽家、小説家、デザイナー、弁護人などの生き方も追いかけていく予定なんだ。ジョバンニも含めて、その誰かに自分を投影して、人生の意味を考え直すきっかけになってもらえたらいいね」

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©Hiroki Kobayashi

まだまだジョバンニの旅は続いていく。
映画の完成は2年後を目指しているという。
ミゲル監督も主人公ジョバンニも、どんな最後が待っているかわからない。
彼らの旅の幸運を祈って、boa sorte!


『The Meaning of Life(仮題)』
監督•撮影:ミゲル・ゴンサルヴェス・メンデス
出演:ジョバニ・ブリゾット、バルタサール・ガルソン、ヒルマル・オウルン・ヒルマルソン、ワダエミ、ヴァルテル・ウーゴ・マイン

◎プロフィール
ミゲル・ゴンサルヴェス・メンデス(Miguel Gonçalves Mendes)
1978年ポルトガル生まれ。俳優として活動したのち、2002年に映画制作会社Jump Cutを設立。2011年に監督を務めた『ジョゼとピラール』では、ポルトガル語圏で初のノーベル文学賞を受賞したジョゼ・サラマーゴの最晩年を密着取材、アカデミー賞外国語作品賞にポルトガルから出品された。『The Meaning of Life(仮題)』撮影後には、そのサラマーゴの問題作『The Gospel Acording to Jesus Christ』を映画化することが決定している。