TRANSIT /  Info  / here

ワインとご飯をめぐるボルドーの旅
~②注目のシャトーを訪ねて~

Info | 2016.10.05

言わずと知れたワインの名産地、ボルドー。その地名ばかりがひとり歩きして、一体どんな場所なのか、実際に目にしたことがない人も多いかもしれません。今回、初夏のボルドーを訪れたTRANSIT編集部スタッフが、歴史的な古い街やシャトーをめぐったボルドー紀行を全4回にわたってお届けします。第2回は、注目のシャトー探訪記。


  20160930_01.JPG 中世の町並みがそのまま残る、サン・テミリオンの旧市街

20160930_02.JPG
サン・テミリオンのシンボルともいえるモノリス教会

 まず訪れたのは、ボルドー地方の右岸を代表するワインの産地サン・テミリオン。なだらかな丘陵地にぶどう畑が広がり、数々の歴史あるシャトーが点在する牧歌的な風景は絵画のように美しい。
 今回お邪魔したのは、〈Château Coutet/シャトー・クーテット〉という伝統的な製法でオーガニックワインをつくる家族経営の老舗シャトー。フランスワインの最高の格付けを得ている人気の産地であることから相続税が高く、昔ながらの土地を手放してしまった家も多いが、ここは代々400年にわたり経営している貴重な場所だ。現在14代目を務めるエイドリアン氏が敷地内を案内してくれた。

20160930_03.JPG
水はけのよい石灰層の土壌にあるシャトー・クーテットのブドウ畑

20160930_04.JPG
エイドリアン氏。8歳の頃からトラクターに乗って手伝っていたそう

20160930_05.JPG
中世の頃のブドウの樹を挿し木しながら、約400年間ワイン造りを継承している

 敷地内はさながら動植物の楽園のようだった。庭には2000年前に持ち込まれたチューリップやグラジオラスといった植物が育ち、鴨が悠々と泳ぐ池にはウナギやエビも生息するという。ブドウの樹は、中世の頃のものを挿し木して育てているそうだ。ブドウ畑のすぐ脇には古代ローマ時代の道示す道標が立ち、まだ発掘されていない遺跡も眠っているという。そうした歴史のある土地で、エイドリアン氏は豊かな自然環境をそのまま活かしたワイン造りに励んでいるのだ。
 ブドウ畑から醸造所まで、ひととおり敷地内の散策を終えると、エイドリアン自ら昼食を用意してくれた。おばあちゃんお手製のいちじくのジャムを添えたフォアグラのソテーにカベルネソーヴィニヨンの枝を焚いてグリルした牛肉のステーキ、デザートにはベリーたっぷりのケーキ。素材をいかしシンプルに調理された料理をいただきながら、数種の赤ワインを口にする。赤ワイン特有のタンニンと果実の芳醇な甘みが混じりあい、上品な後味がしなやかに香った。料理もワインもぐいぐい進む。

20160930_06.JPG
ランチ前、庭にワインテイスティングのテーブルをセッティングしてくれた

20160930_07.JPG
ほろ苦いオニオンのソテーと自家製のジャムが添えられたフォアグラ

 精神科医の母と発明家の父の間に生まれ、自らは細胞生物学や地質学、農業工学を学んだというエイドリアン氏。叔父が継いでいたシャトーを学費を稼ぐ目的で手伝うようになったことで、だんだんとこの仕事に惹かれていったという。そんな彼の趣味はモーターバイクで旅をすること。東南アジアや中南米のジャングルを訪れ、動植物をみるのが好きだという彼に、旅が仕事に影響を与えているかと尋ねた。
「旅で学んだことは人との接し方や処世術、それから自分の生き方かな。自分自身もワイン造りもありのままが一番だということ。ボトルもラベルも飾り立てる必要はないし、オーガニックであることも同じこと」
 柔軟に取材に応じてくれた朗らかなエイドリアン氏の人柄を示すように、ワインは年代によってワイルドだったりエレガントだったりしながらも、どれもとても心地よい飲み口だった。

20160930_08.JPG
ソーテルヌの隣、バルザックの丘のてっぺんに畑があるシャトー・グラヴァ

20160930_09.JPG
アートが好きだというフローレンスさん。夫とともにオーナーを務める

20160930_10.JPG
かつて使われていたカーヴではアート作品の展示をしている

 サン・テミリオンのように質の高い銘醸地が点在するボルドー。世界が誇る甘口ワインのメッカとして知られるソーテルヌのお隣バルザックでは、6世代前から家族経営をしているという〈Château Gravas/シャトー・グラヴァ〉を訪れた。有機減農薬栽培のブドウ畑は決して大規模なものではないが、庭のように手入れをしながら大切に育てているという。そして、ワインの美味しさはもちろんのこと、訪れたものを楽しませてくれるのは、庭やカーヴに展示される芸術家たちの作品だ。芸術家を招聘し、定期的にエキシビジョンを開催するといった試みで、2014年にはワインツーリズムの文化部門賞を受賞したという。
 自らもバルザックのシャトーで生まれ、現在は夫の家系がオーナーを務めるこちらのシャトーの現当主でもあるフローレンスさんは、「私はこの地に根を張って生きている」と胸をはる。アート作品をラベルに採用したり、香水ボトルのバージョンや、ピクニックサイズのカップワイン(気軽に飲めるようにと娘さんのアイデアで造られたもの)を製造するなど、シャトー・グラヴァは着実にファンを増やしている。

20160930_11.JPG
十分な樽熟成が決め手となるシャントグリーヴのカーブ

20160930_12.JPG
ボトルのラベルが貼られる様子も見学できる

20160930_13.JPG
赤ワインからロゼまで、5種のテイスティングをさせてもらった

 その後は、近代的な醸造設備と伝統的な栽培方法をうまく取り入れ、時代の気分に即したワイン造りで人気を集めるChâteau de Chantegrive/シャトー・ド・シャントグリーヴ〉へも足を延ばした。はじめは、ワインは好きだけれど詳しくないしなぁという不安もあったけれど、ボルドーのシャトーをめぐるなかで、そんなことはまったく問題ではないことに気づいた。ワイン畑や醸造所を解説してもらいながら歩くのは社会科見学のようで楽しいし、何より、ふだん東京で飲んでいるボルドーのワインが、今まさに造られている瞬間を目の当たりにできることはうれしかった。もちろん、澄み切った空気のなか飲むワインが美味しいことは言うまでもない。(vol.3へつづく)

20160930_14.JPG
昼食はレストランLe Manègeにて。フェンネルやイクラ、蜂蜜ソースがかかった白身魚のソテー。絶品!

20160930_15.JPG
デザートは黒米のプディング。アーモンドを添えたほろ苦くて濃厚なクリームには赤ワインが相性◎

取材協力:ボルドーワイン委員会