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作家と行く星野リゾート 界伊東&界アンジン
窪美澄さんと旅した伊東

Info | 2017.07.25

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作家が日本各地の宿に滞在する制作旅行企画。連載6回目となる今回、伊豆半島は伊東を、作家の窪美澄さんと旅しました。伊豆半島といえば、東京からも気軽にアクセスできる自然の宝庫。沿岸部には個性豊かなビーチや海の浸食が生んだ奇岩群、内陸部には冬には積雪もある厳しい峠があるなど、その表情はバラエティ豊か。東京出身の窪さんも「伊豆は家族旅行の定番でしたね」と幼少時の思い出があるよう。東京と伊豆半島を結ぶ「踊り子号」へ乗り込むと、レトロな車内が、そんな懐かしい気分をくすぐります。

※この取材から生まれた窪美澄さんによるショートストーリーは、
TRANSIT36号でお読みいただけます。

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踊り子号で2時間もしないうちに伊東へ到着。平安時代に温泉が発掘されたともいわれるこの街は、今も全国屈指の湧出量を誇る一大温泉地。昭和の雰囲気漂う商店街を中心に、市内には、昔ながらのかけ流しの温泉共同浴湯(温泉銭湯)が10ヵ所ほどあり、湯に浸かる人を見守る「七福神の像」なるものも各地に点在(これがちょっとした人気の湯巡りコースにもなっているそう)。温泉が、昔から人びとの暮らしに溶け込んでいるのが感じられます。

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北原白秋や木下杢太郎をはじめ多くの文人に愛されてきた伊東。そんな歴史を感じられるのが、松川遊歩道沿いに佇む昭和初期の温泉旅館、東海館です。唐破風の木造3階建て建築は現在は文化施設となっていて、見学はもちろん、土日祝日には昔ながらの総タイルばりの温泉も利用可能。温泉街には欠かせないお座敷文化の展示(写真下)も楽しいです。

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温泉街のそぞろ歩きを楽しんだら、本日の宿、界伊東に到着。立派な日本庭園とその脇の野外温水プール(源泉!)、そのゆったりとした空間に圧倒されるやいなや、すぐさま取材クルーの心は温泉へ......。

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そう、ここは露店と内湯を備えた大浴場はもちろん、貸し切り風呂、客室風呂、足湯まで全館源泉かけ流しという、湯自慢の宿なのです。いくつかの湯に繰り返し浸って、身体が芯からほぐれていく......。この湯量を授けてくれた温泉の神様に、心より感謝。

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伊豆で有名な椿も、このお宿を彩る名脇役。ご当地部屋「椿の間」では伊東に伝わる美しいつるし飾りや、また椿油づくりや花びら染めなどのご当地学(土地に由来するワークショップ)でも、この花と土地の深い関係を楽しく学ぶことができます。椿の種を絞るご当地学を経験した窪さんは「一粒の種から採れる油って、これほど少量なのですね」とその希少さを改めて実感。その絞り立ての油を肌に垂らしてみると、サラリとした手触りの良さに加えて、その保湿力の高いこと!

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温泉&椿ざんまいを満喫した私たちは、2日目の宿、界アンジンへ向かう前に、伊東のもうひとつの魅力を探りに朝6時に宿を出発。向かった先は、毎朝多くの魚介が水揚げされる、いとう漁協本所です。朝の漁協は大忙し。名産である金目鯛をはじめ、いさき、鯖、烏賊......漁から戻ってきた船からはあらゆる魚が次々に水揚げされ、その度に氷を調達したり箱を並べたり、あっちへこっちへ男性陣が動き回ります。そうして7時を迎えると、種類ごとに魚介が入った黄色い箱の周りに人が集まり、緊張感が漂いはじめます。そう、セリの時間です。
※漁協本所は通常一般公開はされていませんが、直売会などは開催されています

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セリは、セリを仕切る「セリ人」が魚の種類や重さを言い、もっとも高値をつけた仲買人がそれを購入できます(屋号の書かれた紙は、セリに買った仲買人の印)。ドスの利いた声で、時には独特の単語が使われるため、こちとら全くついていけず......。でも、張りつめた空気のなか無駄な会話など皆無で、テンポよく進む取引きには、一朝一夕では身につけられない、男の流儀のようなものが感じられます。

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漁協取材を終え、取材班はいよいよ今回の目玉、界アンジンへ。2017年4月にオープンしたこのホテル、聞き慣れない名前は、江戸時代、徳川家康の命で伊東の地で(それもアンジンの建つ目の前の土地で)造船を指揮した英国人航海士・三浦按針に由来。その名の通り、アンジンの滞在のテーマは「航海」。チェックイン時には、乗船券風のチケットを渡してくれるという演出に心躍ります。

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アンジンの見所は、なんといってもそのデザイン。昔の船や家屋から集めた廃材を用いて作られたオブジェや建具が、館内の随所に散りばめられているのです。館内に漂うモダンでありながらもあたたかいこの雰囲気は、高いデザイン性のなかに"物と人との時間"を感じられるからなのかも。

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海岸沿いに建つ館内では、廊下も半屋外になっているなど、どこにいても潮風を感じられるつくり。なかでも、最上階に設けられた「サンブエナ・デッキ」は、船の甲板をイメージした、アンジンのいわば"特等席"。湯上がり時間に、行き交う船を眺めながらクラフトビールを自分で注いでいただくのは、至福のひととき。ちなみに、サンブエナというのは、按針が建造した船の名前から。

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夕涼みの後は食事処へ。店内へ入るや否や、数種の異素材で作られている建具に驚かされます。古書や古布、色付きガラスなど、その素材はどこか按針の生きた時代の西洋への憧れを感じさせるもの。そんなエッセンスは食事にも満載です。按針の祖国・英国のソウルフード「フィッシュ&チップス」を和風にアレンジした前菜に始まり、アフタヌーンティを模した台に盛りつけられた愛らしい八寸、また伊東で水揚げされた新鮮魚介の数々......。ここでもやはり窓に広がる海を眺めて、その恵みを五感で感じられるとはなんとも贅沢。

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取材班も楽しみにしていたアンジンのご当地学は、「青い目のサムライ紀行」というムービー上映。三浦按針の生涯を楽しく学べるストーリーは、臨場感溢れる演出で、すっかり彼の生きた時代にタイムトリップした心地に。翌朝、窓の外に現れた海は穏やかで、美しく。きっと按針も同じ風景を見たのだろうなと、そんなことを考えながら、次なる旅への想いは広がります。

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星野リゾート 界伊東
場所:静岡県伊東市岡広町2-21
お問い合わせ:0570-073-011(界予約センター)

星野リゾート 界アンジン
場所:静岡県伊東市渚町5-12
お問い合わせ:0570-073-011(界予約センター)


窪美澄
小説家。1965年、東京生まれ。2009年「ミクマリ」で女による女のためのR-18文学賞大賞受賞。受賞作を所収した『ふがいない僕は空を見た』が、本の雑誌が選ぶ2010年度ベスト10第1位、2011年本屋大賞第2位、同年、山本周五郎賞受賞。『晴天の迷いクジラ』で山田風太郎賞受賞。最新作は『やめるときも、すこやかなるときも』。