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『エタニティ 永遠の花たちへ』 公開
トラン・アン・ユン監督取材
物語を超え、映像で伝えるということ

Info | 2017.11.06

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現在、12月発売のTRANSITベトナム号を制作中の編集部。そんななか『青いパパイヤの香り』をはじめ、ベトナムの美を見事に描き出してきたトラン・アン・ユン監督に、パリでインタビューを行うことができた。本誌では、ユン監督がベトナム戦争をきっかけに渡仏して映画監督になるまでの経緯、彼の映像美が培われてきた秘密が語られる。ここでは、そんな取材中に訊いた、最新作『エタニティ 永遠の花たちへ』への想いを紹介していく。

長編デビュー作『青いパパイヤの香り』でカンヌ国際映画祭カメラドール受賞、『シクロ』でヴェネツィア国際映画祭グランプリ受賞、また村上春樹原作の『ノルウェイの森』を映画化するなど、アジアを舞台とした作品でキャリアを積み上げてきたユン監督。今回の『エタニティ 永遠の花たちへ』は、自身初のフランスを描いた作品だ。

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物語は19世紀末のフランス上流階級に生まれたヴァランティーヌ(オドレイ・トトゥ)の家族の話からはじまる。ヴァランティーヌは、一度は親が決めた結婚を断るが、相手の熱心さに心を動かし、夫婦の絆を深めていく。二人の間には多くの子どもが生まれ、幸せな日々を送っていたが、戦争や病などによって子どもを失う。そんな悲しみのなかで再び幸せを呼び戻してくれたのは、息子アンリと幼馴染みマチルド(メラニー・ロラン)の結婚。だが、彼らもまた子どもや愛する人を失い、物語のバトンをマチルドの親友ガブリエル(ベレニス・ベジョ)へと繋いでいく......。ヴァランティーヌ、マチルド、ガブリエル、3人の女性の身の上に起きた出来事が、美しい映像や音楽とともに絵巻物のように流れていく。

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全シーンを通じてセリフがほとんどなく、観客を力づくで役者に感情移入させるような場面はない。しかし不思議と心を強く掴まれる場面がある。生まれたての子どもに幾度もキスをする母たち、子どもたちのピアノの練習を見守る親の眼差し、やがて結婚することになる人と出会ったときの幼い日の記憶......。そういったなんでもない日常が、淡々と描かれ、世代を超えて繰り返され、その様子を観客たちは俯瞰したところから見つめる。ユン監督は今回の作品についてこう語る。

「『エタニティ 永遠の花たちへ』では、3人の女性の一世紀に渡る物語を2時間ほどの作品にしているので、出来事が早いスピードで進んでいきます。この作品では、その時の流れを観客に体感してもらい、人の営みのなかにある普遍的な美しさのようなものを感じとってほしかったのです。登場人物のエモーションを観客と共有するための試みであって、物語を語るための映画ではない。映画を製作していたときには、俳優たちから『もっと演技指導をしてほしい』と戸惑いの声もありました。それでも、この作品はダイアローグで話をつないでいくのではなく、人の表情や仕草で紡がれるものにしたかった。セリフがなくても、ヒューマニティや美しさを伝えることができると思うんです」

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『エタニティ 永遠の花たちへ』では脈々と受け継がれる大家族の物語を描き、『青いパパイヤの香り』では少女の視点を通してベトナムの日常の美を切り取り、『夏至』では美しい3姉妹のほろ苦い恋を映しだしてきたユン監督。さまざまな作品を撮りつづけてきたなかで、彼が映画をとおして伝えたいものはなんなのか訊いてみると、"美"だという答えが返ってきた。

「この作品で、ヴァランティーヌが娘の一人から修道女になることを告げられるシーンがあります。修道院に入るということは、家族と離れて、結婚や子どもを産む人生とは違う道を歩むということ。それはヴァランティーヌにとって、ひとつの娘という美を失ってしまうことでもある。その出来事だけでも、美の儚さを伝えることができます。これまでいろんな作品を撮ってきて、それぞれに見せたかったものや試みは違いますが、"美"を伝えたいというのはどの作品においても言えることですね。たとえば、映画の小道具として使ってきたオブジェや日用品もアンティークのものを選んでいますが、それらも "美しい"と認識されて大切にされてきたからこそ、何世紀も経て、現代に形を残しているわけですよね。"美"はそうやって次の時代へと受け継がれていくもの。時間も超越した正しさのようなものが、"美"にはあると思うんです」

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トラン・アン・ユン監督の意欲作『エタニティ 永遠の花たちへ』はシネスイッチ銀座ほか、公開中。ぜひ映画館で、絵画のような映像美と、人の営みの美しさを体感してほしい。最新作も、TRANSITベトナム号(12月発売予定)のユン監督インタビューも、お楽しみに。


『エタニティ 永遠の花たちへ』
公開:2017年9月30日(土)〜公開中
監督:トラン・アン・ユン
出演:オドレイ・トトゥ
撮影監督:マーク・リー・ピンビン
配給:キノフィルムズ


●Trần Anh Hùng(とらん・あん・ゆん)
1962年、ベトナム生まれ。1975年にベトナム戦争から逃れて家族でフランスに移住。エコール・ルイ・リュミエールで映画製作を学ぶ。1993年『青いパパイヤの香り』で長編映画監督デビュー。その他の作品に、『シクロ』(1995年)、『夏至』(2000年)、『アイ・カム・ウィズ・ザ・レイン』(2009年)、『ノルウェイの森』(2010年)など。