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大山エンリコイサム
人間の原初の欲求
「かく」と「Black」

Info | 2018.11.23

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ストリートアートのひとつエアロゾル・ライティングの視覚言語を再解釈した作風で知られるアーティストであり、TRANSIT41でニューヨークで暮らすアーティストの肖像を取材・執筆した大山エンリコイサムさん。その大山さんの個展「Black」が、11/22(木)からTakuro Someya Contemporary Artでスタートした。展示に合わせて帰国中の大山さんに個展についての話を訊いた。

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-----今回の個展のテーマは「BLACK」とあります。もともと大山さんの作品は色数が少ない印象がありますが、とくに今回「BLACK」と言い切って展示をしようと思ったのなぜでしょうか?

大山:自分がかいている「クイックターン・ストラクチャー」(QTS)というモチーフにはいくつか特徴があって、個展ごとにそのひとつを取り出して展示のテーマやタイトルにしています。2016年に同じギャラリーで行った個展のタイトルは「Present Tense」。「現在時制」という意味です。街中に残された落書きは、誰かがそこにいたという痕跡、つまり「過去」との関連で考えられがちです。美術批評でもそういう解釈が多いのですが、前回の個展で僕はそれを「現在時制」において捉え直すという意図からそうしたタイトルにしました。
 今回の個展では、QTSのモノクロームという性質を取り上げたくて、タイトルを「Black」としました。ただ「白黒」と言ってしまうと、無彩色であり、あくまで色の範疇に入るので、二項対立の枠を外して、「黒=Black」と言い切ることにしました。色ではなくて造形的なイディオムとして提示したかったんです。例えば「白」は空間のことで、「黒」はそこに広がる力であったり動きであったり。白のうちに黒の線がはいると動きが生まれてくる。造形的で動的なものとして「黒」を捉えることができる。黒にはそうした潜在的な力がある。そこでBlack、黒だけを強調することにしました。

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作品:FFIGURATI #163

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作品:FFIGURATI #238

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作品:FFIGURATI #226

----この展示について大山さんは、人間には『かく』欲求があってそれがアートに繋がっていったということをおっしゃっていると思うんですが、大山さんが思う原初のアートってどういうものでしょうか?

大山:ヨーロッパだとラスコーやアルタミラの洞窟画、あるいは石碑であったり、アジアであれば占いのための亀甲文字から漢字が派生したり。痕跡をつける行為は、人類にとって根源的な衝動だと思うんですね。例えばグリム童話のヘンゼルとグレーテルも、森のなかで石を落とすことで自分たちの通った「痕跡」を作り出し、帰り道にした。かつて自然は人間にとって脅威の対象でした。人間という弱い存在を自然という未知の強大な力が取り巻くなか、なんとか人間が自分たちの手によって空間に秩序を与え、把握し、コントロールしようとするとき、まずは自分が今ここに立っている、存在するという痕跡を残すのだと思います。線を引く行為は、自分の空間を確保するための儀式だった。表現の歴史を遡るとそういうところに行き着く。それが歴史のなかでいろんな変化を経て、芸術になったのではないかと思いますね。

----なるほど。最初の人間のアートは何かと考えたときに、現存しているという意味では教科書的にいうとラスコーの洞窟絵だったりしますね。洞窟絵の場合、壁自体がオレンジ色であったり、その上に描かれた動物の絵は朱であったり、すごく鮮やかなイメージもあります。ただ、それすら遡ったときに、色すらついていないもので書いていたかもしれないですね。もはや痕跡が残っているかどうかわからないくらいの。

大山:もうひとつは放牧や農業です。ナマの自然に線を引き、区画化することも「かく」という行為に近いですよね。領域を分割して、ここが私の土地、あちらはあなたの土地というように。土地をならして幾何学的に線引きし、人間の支配下におく。だから学術や芸術以前にも、人間が自然のなかで生きていくうえで、線を引いて分割する行為は本能として存在していたと僕は思うんですよね。もうひとつ面白いのは、人がどうやって円を発見したか。紐に繋がれた家畜が、動ける範囲の草を全部食べてしまった。その跡が円形だったと言われています。放牧や農業を通して、人は自然を幾何学的に分割することを学んだのだと思います。

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----個展「Black」では、観る人に速度も感じてほしいということをおっしゃっていましたね。実際に作品を目の当たりにすると、クイックターン・ストラクチャーの線には速さを感じるし、縦に流れ落ちてゆく線には自然でゆったりとしたものを感じたり、横にざっと流れる直線には時間を切っていくような印象もある、キャンバスに擦りつけられたような線には時空のねじれも感じます。ひとつの絵のなかに、色んな速さがあると感じました。

大山:背景のインクのドリップ(垂れ)は重力による自然な塗料の動き。実際のインクが垂れる速度です。それに対して、僕が腕を振り抜いてかいた痕跡としての線には別の速度があって、それを見る人も身体の動きを感じると思います。一方でモチーフのクイックターン・ストラクチャーは、身体運動の痕跡ではなく、線と線が構造的に絡み合って、ひとつの造形物としてのイリュージョンを生み出すので、純粋に視覚的な像としての速度を感じると思います。実際にQTSをかくのは緻密な作業で、下絵からはじめて何時間も何週間もかかることもある。だけど完成した作品から感じられる視覚的な速度は、物理的な制作プロセスの速度とは無関係で、別のレイヤーが発生している。QTSはそこから運動そのものを反復的に感じ取れる表象なんです。そういう感じで、さまざまな原理の複数の速度が、画面のうちに共存しています。

大山さんの個展「Black」は12月22日まで。ぜひ間近で作品を見て、「かく」という行為に思いを馳せたり、線自体がもつ強さを体感してほしい。


「Black」
開期: 2018年11/22(木)―12/22(土)
会場:Takuro Someya Contemporary Art
開廊:火・水・木・土 11:00~18:00 | 金 11:00~20:00
休廊:日曜・月曜・祝日
住所:東京都品川区東品川 1-33-10 TERRADA Art Complex 3F
TEL:03-6804-3018

大山エンリコイサム
アーティスト。イタリア人の父と日本人の母のもと東京に生まれる。エアロゾル・ライティングの視覚言語を翻案したモチーフ、クイックターン・ストラクチャーをベースに作品を発表するほか、著書『アゲインスト・リテラシー グラフィティ文化論』の刊行や雑誌『美術手帖』でライティング文化特集の企画・監修も手がける。現在ニューヨーク在住。