TRANSIT /  Info  / here

台湾小旅行〜願いに翼をつけてVol.2

Info | 2018.11.06


新北市主催のプレスツアーで訪れたのは、まだ夏の気配濃厚な中秋節の台湾。不勉強ゆえ、初めて耳にするシンペーシ(新北市)を地図で確認すると、台北をドーナツ状に飲み込むかなり広いエリアだった。ジブリ映画「『千と千尋の神隠し』」のモデルとなった街として人気の九份をはじめ、台北からちょっと足を伸す近郊の見所は、ほぼ新北市に含まれている。今回は、十五夜の夜空にランタンを飛ばす平渓天燈節(スカイランタンフェスティバル)や、滝や老街、海辺の温泉など、新北市の見所を、3日間で巡る。


掲載号:未掲載 撮影・文=山西崇文
ルート:新北市(台湾)

tw013.jpg
翌日は朝から生憎の雨。今夜はランタン飛ばす日なんだけどなぁ。不安顔で車に乗り込む日本人3人。フロントガラスをせわしく撫でるワイパーが恨めしい。ま、雨の街も悪くはないかぁ......。諦めかけた頃、スっと雨があがり雲の隙間から青空がのぞいた。

tw014.jpg
最初に訪ねたのは人気のローカル線、平渓線の終点、菁桐駅。駅舎は日本統治時代のままだとか。映画のロケにも使われたという駅前には、どことなく懐かしさが漂っていた。雨宿りがてら駅前の店で食べた昼ごはんは駅弁スタイルで、食べ終わるとアルミの弁当箱と箸、それを包む藍染の布をお土産に持ち帰ることができる。鉄道マニアにも楽しい場所だ。

tw015.jpg
そもそもここは、日本統治時代に炭鉱で栄えた街。鉄道は石炭を輸送するために敷設されたという。初日に訪れた淡水老街もそうだが、日本統治時代の建物を再現したり保存したりと、どうやら多くの台湾の人びとには、日本統治時代は良き懐かしい時代として認識されているようだ。親日国家台湾という触れ込みは、日本人にはもちろん嬉しいことだけど、何かが胸の奥に引っからなくもない。
だが、聞けば台湾の歴史教育は、日本統治時代に日本が何を行なったかも含め、ちゃんと教科書にも載っているという。台湾の人びとの日本人への好意が本物であることを願うばかりだ。

tw016.jpg
つづいて訪れたのは、十分瀑布。雨は気まぐれ、ここでも祝日を楽しむ観光客で賑わっていた。今回は車でやって来たけれど、台鉄平渓線の十分駅から徒歩で約30分程度なので、ローカル線の風情を味わいながらの軽いトレッキングも楽しそうだ。
わかりやすく"台湾のナイアガラ"と呼ばれる十分瀑布は、ナイアガラ型の横長の滝。落差約20メートル、幅約40メートルのスケール感は、山中で出くわすには十分な迫力。
上から覗いていると、さっと雲が晴れ、切間から射し込んだ太陽が気を利かせて虹を浮かび上がらせる。ニクい演出だが、サービスタイムは一瞬だった。
下へ降りると、滝壺へと落下するはしから霧状に噴霧する水が立ち込めていて、たちまち濡れてしまう。雨が止んでも、どのみちびしょ濡れになる運命だったみたい。

tw017.jpg
思いかげずダイナミックな景色に出会ったあとは、十分老街へ。昨日から老街(ラオジェ)ばかり訪ねてるけど、老街とは清朝や日本統治時代に造られた街のこと。けれども、ここの老街が面白いのは、街の真ん中が道路ではなく線路だということ。ローカルな線路を挟んで土産屋や民家が立ち並び、なんともコンパクトに凝縮された印象。郷愁よりも活気だ。

tw018.jpg
電車がやって来ないときは、みんなわちゃ〜っと線路にはみ出して、思い思いにランタンにメッセージを書いては飛ばして、ある意味カオス。あれしちゃダメ、これしちゃダメって感じが一切ないもんなぁ〜。これぞアジア的自由だ!

tw019.jpg
聞けば、この街は神様が住む場所に一番近いといわれいて、ランタンも神様に届きやすいのかも。だから昼間っからバンバン願いを飛ばしてるんだろうね。競うように狭い民家の隙間を縫って上がるランタンをハラハラしながら見るのもまた一興だ。

tw020.jpg
tw021.jpg
しかし台湾の人たちは写真が大好きだ。好き過ぎる!バエると見れば、すかさず撮影大会だ。面白いのはポーズや表情の豊かさ。正直、早くどいてほしいし、ダっさいポーズだなぁ、自撮りでよくそこまでの表情が出せるなぁ、なんて思ってたんだけど、眺めてるうちにそれが可愛らしく思えてきて、丸ごとそれを撮るのが楽しくなってきた。だって待ってても終わらないし、すかさず次のチームがやって来るしね。だから、丸ごと!それも台湾の景色なんだと気づいた。

tw022.jpg
16時、今夜のメインイベント、平渓スカイランタンフェスティバルへと向かった。はっきりしない天気も、いきなり覚悟を決め込んだのか土砂降りに。そっちに覚悟を決められちゃ困るんだけどね。雨を止める直談判のランタンを今すぐにでも飛ばしたいくらいだ。
「ここでは、365日のうち200日は雨ですよ」と、ライさん。旅空は晴れであってほしい、そんな願いは儚く散るのであった。

tw023.jpg
このフェスは、もともとは台湾のお正月である元宵節に行われるイベントだったけど、2017年からは中秋節にも行われるようになった。毎回変わるという会場は、今回は中学校。ステージでは本番に向けたサウンドチェックが行われ、プレスルームに早変わりした教室からは随時情報が発信されていて、まさにフェスという大舞台の躍動が伝わってくる。

tw024.jpg
体育館では、熟練の職人さんが巨大ランタンを仕上げていた。標準サイズのランタンでさえ写真や映像からイメージするよりも大きく感じられるというのに、この巨大ランタンはまさに気球。一人くらいなら飛べそうだ。ランタンマイスターとも呼びたくなるような、こうした職人技を見るのも楽しい。
中秋節のアイドル、可愛らしいうさぎランタンも。台湾のお月様にもうさぎが住んでるんだね。

tw025.jpg
本番の打ち上げは9回に分けて行われ、事前に申し込んだ人びとを100組づつ校庭に入れて一斉に飛ばす。地元のボランティアが各組みに付き、打ち上げまでをサポートする。さっきの老街と違って、一斉に飛ばすとなるとけっこう緻密な手順が求められるのだ。

tw026.jpg
意外だったのは、企業の協賛などなく、まさに地元の力で行われるイベントだということ。にも関わらず、ローカル色より国際色が強いのも面白い。お客さんはバラエティに富んでいて、台湾各地からのほか、はるばる海外からの人たちもたくさん。地元発信のイベントでありながら、国際的フェスへと大きく成長中なのだ。

tw027.jpg
18時の本番が近づくと、打ち合わせていたように雨が止んだ。すでに校庭入りした最初の100組は、思い思いの願いをランタンに書き込んでいる。
ステージでは地元のバンドや学生の太鼓など、熱いパフォーマンスが繰り広げられ、ぱみゅぱみゅ的な司会の女の子がハイテンションに盛り上げる。この辺りはまさにパーティモード。一転、ランタンに火が灯ると神秘的なムードが会場を包む。みんなの顔がほのかに照らされて、なんだかいいムードだ。

tw028.JPG
4度目の回に我々の番がやってきた。ランタン広げて、メッセージ書いて、なんてバタバタしてると、あっという間にその瞬間がやって来る。打ち上げは、チームで息を揃えないと傾いて真っ直ぐ上に上がっていかないのでコツが必要だ。点火したランタンが想定外に熱いことも初めて知った。カウントダウンの10秒が長い長い。

tw029.jpg
「3、2、1、ゼロ!」。
みんなが一斉に手を離し、ランタンが宙に浮く。風は少し強め。歓声やため息が入り乱れ、それぞれの感情表現とともに自分たちのランタンを目で追う。イメージよりパワフルに、そしてあっという間に夜空に吸い込まれていく。「願い事が翼をつけて飛んでいく」、フェスのキャッチコピー。まさにその通りの光景だが、それに加えUFOの船団を見送る気分も味わえた。
手を離して胸に去来したのは、なんともいえない切なさ。そうか、爽快感じゃなくてほんのり切ないんだ......。願いよりそんな感想を胸に呟きながらランタンを見送る。

tw030.jpg
実際に体験して、とっても腑に落ちたことがひとつ。それはみんなで空を見上げるっていいなと。大切な人たちとここにやってきて一緒に空を見上げる、もっと単純にいうと、上を向く。そんなシンプルなことがとっても胸を打つんじゃないだろうかと。
今夜、この校庭に下を向いてる人はいない。みなキラキラした顔で夜空を仰いでいる。希望や未来は地べたにではなく、きっと夜空の向こうにあるばす......。

昔々、故郷を遠く離れて戦う兵士が、家族へ無事を知らせる合図として飛ばしたのがランタンの始まりだときいた。ランタンの形が諸葛孔明の帽子に由来しているとも。そんなトリビアの諸々を懸命にメモっていたけれど、「みんなで上を向くっていいもんだな......」その単純な幸福感のなかで、それはもうどうでもよかった。
顔を上げて上を向けば幸せになれる、それが大好きな人たちとならきっと。そんなランタンからのメッセージを確かに受け取ったら、それでもう十分に思えた。
次は大切な人と一緒に来よう、その日を思ってまた楽しい気分が込み上げてきた。

tw031.jpg
あっという間に最終日。文句なしの快晴。今朝は朝風呂に入るのだ。ホテルを出て高速にのると台北を抜け基隆方面へ。基隆を抜けると海が見えてきた。翡翠湾を右手になめるように気分のいい海辺のドライブ。
ついついアジア的ノスタルジーに包まれて忘れてしまいがちだけど、台湾は大きな島。僕は密かに"でかめの南の島"って呼んでた。そう、ここは南の島なんだよ。右手に見える長い白砂のビーチはそれを思い起こさせてくれた。

tw032.jpg
到着した温泉は、「舊金山総督温泉」。ここは珍しく水着の着用なしで入れる温泉だという。一糸纏うか纒わぬか、それが温泉体験のクオリティを格段に左右するのはいわずもがな、社会学的にも文化人類学的にも哲学的にもむちゃくちゃ深度の深い大問題なのだ。

tw033.jpg
tw034.jpg
tw035.jpg
1939年、日本統治時代に建てられたこの温泉は、その後、国民党軍の駐留を経てやがて閉鎖に至り、2000年になって再び蘇ったという、まるで近代台湾の生き証人のような存在。建物は日本時代の姿を留めていて、なんともレトロな風情が旅情を刺激する。庭には大きな冷泉、屋上には海が見える露天風呂がある。泉質は、中性炭酸泉、酸性硫黄泉、アルカリ性硫黄泉(源泉複数)。朝の露天風呂は、堪らない贅沢な時間。晴れた海を眺めながらなら、なおさらだ。

tw036.jpg
tw037.jpg
ググッと山を登って行くと現れたのは、財神廟。お金にまつわる神様がいる場所。ここは、神様が経営する銀行のような神社。日本の神社仏閣とはだい発想が違っていて、実際に通帳を作ってお金を貸りることも出来る。かなりカルチャーショッキングなスポットだ。現世御利益を求めて多くの人々が押しかける。僕らが訪れていた時も、大手車メーカーのバッジを胸に付けた営業マン数人が、熱心に手を合わせていた。

tw038.jpg
続いて金山金包里老街。ここは北海岸で唯一、清の時代に作られた街並みが残る場所で、かつて台湾北部に居住していたと言われる原住民、凱達格蘭族の「豊かな土地」という言葉が由来。

tw039.jpg
昼ごはんは、一番人気の「金包里老街鴨肉」で。看板の鴨肉はもちろん、海が近いので海鮮も美味い。いろんな種類の皿を好きに取って、みんなで円卓に陣取る。まさに台湾的幸福景色。けれども、同じメンツで円卓を囲むことは二度と無いだろう。楽しい宴にもサザエさんのエンデイングテーマが流れる日曜の夕方的切なさが覆うけど、まぁこれが旅だ!

tw040.jpg
tw041.jpg
とどめに、この近くにある朱銘美術館へ。1933年台湾生まれの彫刻家「朱銘」(ジュ・ウミン)が自らの作品を飾るために作った美術館で、野外の自然を利用した広大な敷地には、作品が効果的に配置・展示されていて、一日かけてのんびり楽しむスケール。特に、太極拳や軍隊のシリーズは必見。屋内のバレリーナのシリーズもお薦め。子供達への美術教育にも心を砕いた彼の理念の生きたこの場所は、家族連れでも楽しめる優しい美術館だ。
温泉浸かって海を眺めて、神様にお金を借りて、老街でグルメ三昧、仕上げに美術館で知的な冒険!台北から飛び出して新北で遊ぶのは、台湾の新しい楽しみ方なのだ!と、プレスツアーを持ち上げておいて、(いやいや、本当に楽しい三日間だった)これで旅は一旦終了なのだ。

tw042.jpg
駆け足の3日間、どれも楽しかったけど、昨夜みんなと別れた後、ライさんとベラちゃんと3人で食べたマンゴーかき氷の写真でこのレポートを終えよう。なんかお友達みたいな雰囲気で夜遅くまでおしゃべりしたのは楽しかったなぁ。どんな名所やスペクタクルにも勝るんだよね、旅先でのささやかなひと時って。

せっかくの台湾、僕はもう少し楽しみたいので、ここからは一人延長戦で台南へと向かう。親切にも、長距離バスのターミナルまでギョクリンさんとベラちゃんが付き添ってくれた。優しいんだ、こっちの人たちは。別れ際、3人で撮った写メは、これからの一人旅の大切なお守りになってくれるだろう。


謝謝、再見!
https://tour.ntpc.gov.tw/ja-jp/