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日常と非日常のあわいに
(三重県・賢島旅)-前編-

Info | 2019.02.05

訪れた地で味わう高揚感。刺激的で見たことのない世界。
旅への渇望を燻らせつつも、長い休暇は叶わず毎日が過ぎていく。
そんな私が週末のショートトリップ先に選んだのは、三重県・志摩地方。
東の住まいからでも一泊二日の旅程が組める気軽さに背を押され、風光明媚な彼の地を訪れた。

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東京から新幹線で約1時間40分。名古屋で近鉄に乗り換え、2時間と少し。
陽が射してきらきら煌めく海を遠目に見つつ、有名な水族館や山あいの田畑を通り過ぎた先に辿り着いたのは賢島駅。近鉄志摩線の終着点であるここは、その名の通り、紺碧の英虞湾に突き出た賢島の中心に位置する駅だ。
旅情あふれる頭端式ホームを出てすぐの駅前ロータリーからは、島内各ホテルへのシャトルバスが運行している。
その中のひとつに乗って、まず目指したのは本日の宿「志摩観光ホテル」。

さて、地元では「シマカン」の愛称で呼ばれるこの老舗ホテル。
1951年の開業以来、皇室の方々に愛され、小説の舞台にもなった由緒正しき宿である。
近年では<G7 伊勢志摩サミット2016>の開催地となるなど、全国的にも注目を集めたのでご存知の方も多いはず。
緑の多い広大なホテル敷地内には、宿泊棟含む三棟の施設がそれぞれの個性を放って存在している。

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到着後、まず足を向けたのは、歴史と伝統のある宿泊棟「ザ クラシック」。
扉をくぐった瞬間にふんわり漂う温かみのある木の香りに、旅の始まりから魅了される。

建築家・村野藤吾氏の設計による「ザ クラシック」は、入り口真正面の大きなガラス壁によって明るさと抜け感を保ちつつ、随所のしつらいは極めて落ち着いて上品。館内を散策するだけでクラシック建築の粋を存分に楽しむ事が出来るうつくしい建物だ。
落ち着いたウッディーノートに浸りながら天井の造形や廊下の絵画を眺め歩くだけで、移動疲れもするすると抜け落ちていくよう。

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「シマカンと言えば、何と言っても客室からの眺めでしょう」
宿泊経験のある知人からの情報があったので、予めある程度の景色は予想していたものの、いざ客室に足を踏み入れた瞬間、思わず歓声を上げてしまった。

時刻はちょうど夕暮れ時。端正で落ち着いた雰囲気の部屋の奥は、一面の広い窓。
そしてその更に向こう側に現れた眺望は、日常を離れ遠くまで来たことを実感するには充分だった。

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壮麗な黄金色に染まった英虞湾の水平線、柔らかな光に包まれて影になる真珠の養殖いかだ。
陽が傾き、潮が満ちはじめると...の情景描写から始まる、作家・山崎豊子氏の小説『華麗なる一族』が脳裏に浮かぶ。
(彼女もまた、志摩観光ホテルを定宿にしていた一人。『華麗なる一族』の物語は、まさにここの一室で執筆された)

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日没を最後の一筋まで堪能したあとは、ホテル内の散策へ。

きけば、ホテル内には客室以外にも、ゲストラウンジやデッキなど夕日の絶景スポットが複数箇所あり、宿泊客はそれらの場を自由に利用できるとのこと。
先に見た部屋からの眺めもさることながら、これらのスポットからの眺めもとても魅力的。

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1-8.JPGお菓子やドリンクをセルフスタイルでいただける「ザ クラシック」のゲストラウンジ。宿泊客限定スペースなので、自宅のように寛いで過ごせる。

1-9.jpg隣のリーディングルームではこの地にまつわる多様な本を、そしてこのリスニングルームでは、高品質な音環境の中でクラシック音楽を楽しめる。

「ザ クラシック」から目と鼻の先には、残り二つの建物「ザ クラブ」「ザ ベイスイート」が佇む。

01-10.jpgホテルの歴史資料が詰まった「ザ クラブ」。開業当時の建物をリニューアルして作られた和モダンな内装。サミットで実際に使用されたテーブルなども見学可。

01-11.jpg2008年に新設された建物で、全50室がすべてスイートルームの「ザ ベイスイート」。「ザ クラシック」同様、ゲストラウンジやレストランも完備。最上階の屋上庭園からは英虞湾を見下ろすパノラマ景色。

三つの館を繋ぐのは、季節ごとに趣を変える広大な庭園。
木々や草花の香りを感じながら散策道をゆったり歩み、館と館とを行き来できるのもまた楽しい。
海のごく傍にありながら、磯臭さはまるでなく、不規則な潮騒だけが静かに場を揺らしている。どこまでも穏やかで心落ち着くこんな時の過ごし方、果たしていつぶりだろう。

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夜の帳もしっかり下りた頃、待ちに待ったディナータイムの到来だ。
夕食に使えるレストランはホテル敷地内に複数あり、宿泊時に選択可能だが、今回は散歩しながら訪れた「ザ ベイスイート」内のフレンチレストラン【ラ・メール】で頂くことにした。

ちなみに「ザ ベイスイート」は、「ザ クラシック」とはまた異なる気品ある香りに満たされている。ガーデンローズやジャスミンなどにムスクを加えたものだそう。
このように、三つの館それぞれに作られた世界観とその小道具への気付きも、志摩観光ホテルを楽しむポイントのひとつだろう。

01-13.jpg「伊勢海老クリームスープ」「鮑ステーキ」等のホテルを代表する名物が存在する一方、こちらの【ラ・メール】においては、代々受け継がれる哲学を守りつつ、独自の新しいメニューが提供される。

01-14.jpg総料理長・樋口宏江さんが生み出す料理は、見目華やかで、口に入れる前から嬉しくなってしまうものばかり。勿論、口に入れればもっと嬉しくなってしまうのだけれど。

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伊勢海老クリームスープ、六種の海藻と鰹の塩辛が入った自家製バター、本国フランスでも希少なブルゴーニュ種の三重産エスカルゴ、こがしバターの鮑ステーキ...続々と現れる魅惑の料理たち。

中でも今回特に気に入ったのが「伊勢海老のソテー」。
しっかり身の詰まったエビに、刻んだ伊勢たくあんを使用したベルモットソースがかけられた絶品で、エビ・たくあん・キヌア等々の異なる食感が、ひとくち毎に美味しさと一緒に楽しさも運んでくれる。
多彩で新鮮な食材、旬の味覚。古くから「御食国(みけつくに)」と呼ばれたこの地域の豊穣さと、シェフの確かな腕前に、胃も心も満たされたのだった。

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夕食後は再びゲストラウンジに戻り、温かい飲み物を頂きながら本を読んでリラックス。
いつもの旅のようにあちこち名所を巡った訳では無い。
けれど、日々の生活と地続きなようでいながらも、小さな「特別」がそこかしこに散りばめられたここでの時間は、何物にも代え難いとしみじみ感じた夜だった。


■アクティビティ
それでも「ただ館内にいるだけじゃつまらない!」という方へ耳より情報。
宿泊中は、バラエティ豊かなアクティビティに参加可能。ホテルを出て自然の中で遊びたい時、心身ともにリラックスしたい時、土地の伝統文化に触れたい時。宿泊曜日や日時に応じて開催メニューが変わるから、何度目の宿泊でも楽しめるはず。

参考URL/https://www.miyakohotels.ne.jp/shima/activity/index.html


■志摩観光ホテル
住所/三重県志摩市阿児町神明731
TEL/0599-43-1211
参考URL/www.miyakohotels.ne.jp/shima/





<旅行記後編へ続く>