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旅と本と映画
フィンランドを知る5作
森下圭子選

COLUMN | 2020.06.04

本や映画で旅をしよう。各国に造詣の深い方々を案内人とし、作品を教えていただく連載の第五回。


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セレクトしてくださったのは、ムーミンが大好きでフィンランドに渡り、映画『かもめ食堂』のアソシエイトプロデューサーも勤めた森下圭子さん。可愛くて穏やかなイメージの強いフィンランドの、意外な一面を教えてくれました。


フィンランドを知る5つの本と映画
文=森下圭子


『ぶた』

ユリア・ヴォリ著 森下圭子訳(文溪堂)

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 フィンランドの色づかいやデザインっていいな。そんなことを考えながらページをめくるのが楽しかった本がこちらの絵本です。もともと新聞の週刊情報誌に連載されていたコミックスで、当時20代だった作者のライフスタイルや、1990年代終わりのフィンランドの流行などが垣間見られます。

 主人公も仲間たちも寂しくなったり落ち込んだりするのですが、その都度あれこれ工夫して、自分らしいユーモアで生活を楽しくしていく様子などは、そのまま今の時代でも暮らしのヒントになるのではと思います。友だち思いで文化的で意外とインテリ、工夫する力や想像力が豊かな様子は、そのままフィンランドの人たちのようでもあります。

 実はこの絵本、私がはじめて翻訳した本でもあります。生きることが少し楽になる内容、不意にクスっと笑ってしまうユーモアの世界、同時にフィンランドらしいセンスに溢れた絵、フィンランドの文化・暮らしが詰まった一冊です。


『わたしのマトカ』

片桐はいり著(幻冬舎)

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 フィンランドの入門書としてよくお勧めするのがこちら。映画『かもめ食堂』の撮影のためにはじめてやってきたフィンランドで、好奇心旺盛に撮影現場に街にと溶け込んでいった片桐はいりさんのフィンランド滞在記。

 フィンランドの撮影現場、食のこと、マッサージのこと、さらにヘルシンキの街や地方のファームでの体験などが、他の国での旅の様子なども交えつつ、とても豊かな比喩や情景描写で語られています。

 この本が出版されたのは『かもめ食堂』の公開時なので、2006年です。あの時は想像だにしていなかったけれど、あれから食事はレベルが上がり、美味しい店も増えました。変わったことはほかにもあれこれありますが、トラムの運転士さんの感じや町のテンポなど、当時と変わらないものもたくさん。とくにフィンランドに一度降り立ったことがある方には、大いにお勧めです。自分が旅したときのことも、この本によって臨場感たっぷりに思い出されるのではないでしょうか。


『サウナのあるところ Miesten vuoro』

ヨーナス・バリヘル、ミカ・ホタカイネン監督

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©2010 Oktober Oy.


「フィンランドの男たちに捧ぐ」と一言添えられたドキュメンタリー映画『サウナのあるところ』は、2010年の作品。原題はMiesten vuoro(ミエステン・ヴオロ)、直訳すると「男の順番」という意味です。男は泣くな、男はしゃべるな、そんな風に生きてきたフィンランドの男の人たちが、サウナで裸になったときに何と素直になることか。女性観、口をつぐんできた男の過去の振り返り、後悔、思い出しただけで泣きそうなくらいにこみあげてくる幸せの瞬間、自分の人生、価値観、誰かの人生、それをひたすら聞く人たちの姿も印象的です。

 それにしてもサウナのあるところって、津々浦々というか、さまざまな環境の中にあるんですね。どんな人の人生にも寄り添っているというか。電話ボックスなど、そんなものからサウナを作るの?というのも含め、町の景色にも大自然の中にも上手に馴染んでいるサウナ。

 美しい風景と、フィンランドの男たちの心の内に耳を傾けながら、フィンランドの内面世界に触れていただければと思います。


『ヘヴィ・トリップ/俺たち崖っぷち北欧メタル!』

ユッカ・ヴィドグレン、ユーソ・ラーティオ監督

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*7月1日(水)BD&DVD発売決定(発売・販売:キングレコード)


 フィンランドの人はシャイと言われますが、それを凌駕するほどの熱量で「大切なもの」を持っている人も多いのです。それは個性を尊重する教育や国民性が背景にあるのかもしれません。大切なものは趣味として楽しむ人もいれば、いつの日かそれで名を馳せたいなんていう人もいます。そしてこれはメタルバンドとして大舞台に立とうとした人たちのお話。

 フィンランドはメタル大国だというのをご存じでしょうか。コンサートやフェスティバルなど、文化事業のほとんどが助成金によって成り立っている中で、メタルのフェスティバルは、チケット収入だけで運営できるくらい人気なのです。でもメタルの立場がイマイチな保守的な田舎で、どうやって自分たちの大切なものを追求していくか。

 この映画はフィンランドの夏の美しさもたっぷり楽しめます。爆音を奏で雄叫びをあげていても、メンバーのお母さんの手料理を皆でおいしそうに食べてる微笑ましい場面など、爆笑に次ぐ爆笑を経て、最後は彼らの熱量にほろっときてしまいます。どこか懐かしさもあるけれど2018年の作品。いまのフィンランドの人の生きざまの一例をぜひ。


『少女ソフィアの夏』

トーベ・ヤンソン著 渡部翠訳(講談社)

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 フィンランドの夏は世界で一番素敵なんじゃないかと本気で思っているのですが、そんな夏の景色をぜひお届けしたいと思って選んだのが『少女ソフィアの夏』。原題を直訳すると『夏の本』、作者はムーミンで知られるトーベ・ヤンソンで、実際に自分が過ごした島を舞台にしています。

 トーベ・ヤンソンが夏を過ごしたペッリンゲという群島の地域は、ヘルシンキから車で2時間ほどのところにあります。その地域で唯一の商店を営んでいた方が、生前のトーベについての思い出を語るときによく出てくるのが、買い物ついで一緒に楽しんだお茶の時間のことでした。商店の事務所の一角で濃いコーヒーと甘いものをいただきながら、しばしばトーベは旅の話をしてくれたそうです。ノルウェーのフィヨルドのことも、トーベが語ると、行ったことないのに自分も旅をしているように、その風景がありありと浮かんできたとか。

 島の夜はどのように訪れるのか、嵐が近づいているとき、夏がいよいよ終わろうというとき、また、折々の島暮らしの心構えなど、おばあちゃんと少女が共有するその自然は、フィンランドの夏を情緒たっぷりに、そして余韻をもって描かれています。フィンランドの夏の風をぜひこの一冊で感じていただけたらと思います。




森下圭子(もりした・けいこ)

ムーミン研究のため1994年秋にフィンランドへ。現地での通訳や取材コーディネート、翻訳などに携わりながら、ムーミンとトーベ・ヤンソンの研究をつづけている。ヘルシンキ在住。武井義明(ほぼ日)との共著『フィンランドのおじさんになる方法。』(角川書店)や、ポエル・ウェスティン著『トーベ・ヤンソン 仕事、愛、ムーミン』(畑中麻紀との共訳、講談社)など。
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