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表現者が生まれし国

Travelog | 2014.10.14
ヨーロッパの真ん中に位置するオランダとベルギーは、ふたつ合わせても国土がドイツの5分の1に満たないくらい小さい。ではそんな小国で、絵画やデザインや建築など幅広いシーンで、傑作が生まれつづけるのはなぜだろう? 画家、デザイナー、建築家......様々なアウトプットで世界を魅了する表現者たちに会いに両国へ飛んだ。
  • 掲載号: TRANSIT26号 オランダ・ベルギー / 撮影 : 三部正博 /文:編集部(TRANSIT)
  • ルート: ハーグ~デルフト~アムステルダム~ロッテルダム~アントワープ~ゲント

国会議事堂や中央官庁、各国の大使館が置かれたオランダの政治の中心地ハーグ。まずはピート・モンドリアンの世界最大級のコレクションをはじめ、モダンアートに特化したハーグ市立美術館へ。落ち着いた街ゆえ年配の方が多く、ほっこりした雰囲気。


"オランダのフランク・ロイド・ライト"ともいわれるH.P.ベルラーヘによる建築は、レンガ造りのキュービックな外観が有名だけれど、上品な直線で遊んだ内観も素敵。これを見るだけでも行く価値があると思う。


対照的なのが、17世紀の邸宅を改装したマウリッツハイス美術館。赤や緑のしっとりした壁紙や重厚感ある木のインテリアが、傑作を生き生きと蘇らせる。今年6月のリニューアルではモダンなエントランスなどが加わり、新旧の融合が見事。3点のフェルメール作品やレンブラント、ヤン・ステーンなど、オランダ絵画の黄金時代の傑作が揃うものの、展示方法は意外にも親しみやすい。


マウリッツハイスのスーベニアショップで見つけたアヒル少女。これもある意味傑作アート(!?)


"だまし絵の天才"の異名をもつエッシャー美術館もハーグに。作品群はもちろん、エッチングの手法や、エッシャーの視点を体感できるプレイグラウンド、世界観を再現した内装など、テーマパークのように参加しながら楽しめる。


ハーグから車で10分、フェルメールの故郷であるデルフトへ足をのばす。人口10万人ほどの、こぢんまりとかわいい街。アムステルダムと同じく、ここでも運河が多数めぐる。


フェルメール作品のお勉強をすべく、フェルメールセンターへ。アトリエや画材を再現したものや、独自の表現法や遠近法の解説など、作品を深く知ることができる。

フェルメールの生家や洗礼を受けた新教会、記念碑など、街にはゆかりのあるポイントが点在。解説を読みながらブラブラするのは、画家の足跡を辿るようで楽しいひととき。

毎週土曜日に開かれるという、蚤の市に遭遇。デルフトの名産、ブルーの絵柄が施された「デルフトタイル」も豊富で、お土産屋さんより価格はお手頃。18世紀のアンティークものを発見して興奮!

いよいよ首都アムステルダムへ。まずは街一番の観光スポットであるミュージアムプライン(広場)へ。その名の通り、たくさんの美術館が集まる街の中地。「Iamsterdam」前での記念撮影は観光の定番のよう。でもこの直後、とある男性が転落し、救急車を呼ぶ事態が発生しヒヤリ......。

世界屈指の傑作を誇る国立美術館。けれど、個人的には内装と設計がツボ。自然光に溢れたエントランスの真ん中には、なんと自転車道路が貫通!改装時には、この道路が閉鎖されることにサイクリスト協会が反対し、大騒動の末、改装は10年におよんだという裏話も。

フェルメール『牛乳を注ぐ女』と並ぶ人気を誇る、レンブラントの『夜警』。ちなみにアムスには51の美術館と、22のレンブラント作品、206のゴッホ作品があるそうです。


シンゲル運河沿いに広がる花市場で見かけた、様々な色と形のチューリップ。業者向けの店? とみまがうほどのバリエーションにびっくり。16世紀末にトルコから伝わりオランダの国花になったチューリップ。品種改良が繰り返され、今や2万種以上(!)あるといわれる。


アムスといえば17世紀の趣残る旧市街が観光の定番。けれど、再開発地区も面白いと聞き、中央駅の反対にあるアイ湾に浮かぶボルネオ島へ。トラムを下りるや否や現れたのは、曲がりくねった形に銛(もり)のような飾りがついているアナコンダ橋。左奥にはオフィスと住居が合体した「ザ・ホエール」。強いて言うなら、マッコウクジラ似ですかね。

ボルネオ島を訪れる多くの人のお目当てがココ。高さや建材などの条件を定め、20人のデザイナーが設計したスポークンブルグと呼ばれる居住地区。運河に沿う長屋風の建物を、住人が船で行き来する光景もちらほら。アムスでは昔も今も、人びとは水にそっと寄り添うように暮らしている。

アムスが新旧の融合ならば、ロッテルダムは街全体が新しい街。第二次大戦のドイツ軍による空爆で、街の大半が焼けてしまったためだ。オランダのほかの街にあるような鐘楼や教会はなく、代わりに斬新な建築物が空へとのびる。

直線的なモチーフを繰り返す「構造主義」で有名な建築家ピート・ブロムによる、キュービックハウス。住居として機能しているけれど、なかには見学用の部屋や、宿として貸している部屋もあり。敷地内に入ると、平衡感覚が崩れるような心地がした。

まるでユニークさを競い合うように、街には個性豊かな建築がたくさん。けれども、それらの集合体である街並みには、不思議とハーモニーが感じられた。

市内から船を乗り継ぎ約40分。オランダの伝統的な風車が残るキンデルダイクへ行ってみることに。あいにくこの日は、うす曇りのぱっとしない天気。けれど、すぐにロイスダールの作品が頭のなかでリンクした。ロイスダールは17世紀にオランダの風景画を確立した画家。平坦な土地や干拓の風車、曇りがちな天気など、絵のなかのオランダは今もそこにあった。

ロッテルダムから電車に乗り3時間、ベルギーのアントワープ中央駅ヘ到着した。アーチ状の天井にゴシック調の華麗な装飾など、芸術品のような光景に見とれていたら"世界で最も美しい駅"といわれるそうで、納得。


アントワープの画家といえば、17世紀ヨーロッパのバロック様式を代表するルーベンス。アントワープ大聖堂では、作品の多くを観ることができる。動きの多いドラマチックな構図に華麗な色彩、筋肉質だったり豊満だったりする人体表現......魂が込められているような表現に息をのむ。


ルーベンス作品が所蔵されているルーベンスの家も良いけれど、ここではロコックスの家を紹介します。17世紀にアントワープ市長だったロコックス氏のコレクションが、彼の閑静な邸宅で公開されている。ルーベンスの大親友であり、そのほかの画家の庇護者でありコレクターでもあった彼。「フランドル派」としてベルギー北部のアートシーンが花開いた当時の、華やかな時代を肌で感じることができる。

季節柄、街では微笑ましい遠足シーンをよく見かけた。教会見学を終え、ルーベンス像を囲んでのおやつタイム!

クラシックな街並みのアントワープで一際目立っていたのが、ジェンガのようなルックスのアートスペースMAS。写真では見えないけれど、タイル張りの壁には街の象徴でもある銀色の「手」が等間隔で3000個貼付けられている。ここはアントワープが海運業で繁栄を極めた16世紀の倉庫が並ぶ港湾エリア。近年では店舗やギャラリーとして改装され、クリエイターや若者が集まりつつある。

屋上からスヘルデ川を一望できると聞き、MASの館内へ。驚いたことに、側面を覆うガラスはどこも波打っていた。ガラスの向こうに移る景色はデフォルメされ、まるで絵画のようにも見える。

アントワープから電車で3時間。学生の街ゲントへ。ここは25万の人口の4分の1が学生の街。取材でお邪魔したKASKという名門美大もここに。夏休みに入ったばかりのこの頃、旧市街の中心となるコーレンマルクト近くのスヘルデ川の両岸には、朝から晩まで学生が集まり、高揚感が漂っていた。

賑やかなパーティが終わり、静まり返った深夜のスヘルデ川。商人の寄進で建てられたいくつものギルドハウスが、かつての街の繁栄を思わせる。宝石のように水面に映る姿は中世のシーンそのものに思える。

聖バーフ大聖堂で『ゲントの祭壇画』を観る。これは15世紀に描かれたフランドル絵画を代表する12枚のパネル作品。宗教改革では破壊されかけたり、第二次大戦後にはナチス・ドイツに略奪されたり、しかも1934年に盗まれた1枚は今も行方不明のままという、美しくも不幸な運命をもつ作品。 ※撮影は取材用に許可を取ったもので通常は禁止されています。

ちなみに、同じくゲントにある市立現代美術館では、この作品の修復作業をガラス越しに見学できる。なので、修復中のパネルだけはここにあります。

幸運なことに、現代ベルギーを代表する画家ミヒャエル・ボレマンスに取材できることに。アトリエにお邪魔し、ポートレイト撮影。ピリッとしたスーツ姿に緊張したものの、オープンで愛嬌たっぷりの人柄で、ホッ。

取材を終えると、挽きたてのコーヒーを南部鉄器のぐい飲みに入れて出してくれた。作品が日本でも人気なことを伝えると「一体全体何がおこっているのか僕にも分からないよ!」とおどけてみせて、ガハハと笑う。表現者を生み、表現者に愛される土地。中世より息づくその風土は、今日も、未来の表現者へと受け継がれている。

  • 掲載号 : TRANSIT26号 オランダ・ベルギー / 撮影 : 三部正博 /文:編集部(TRANSIT)
  • ルート: ハーグ~デルフト~アムステルダム~ロッテルダム~アントワープ~ゲント