旅と本と映画
アラスカを知る5作
石塚元太良選

COLUMN | 2020.07.28

本や映画で世界を旅しよう。そのエリアに造詣の深い方々を案内とし、作品を教えていただく連載の第6回。
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今回セレクトしてくださったのは、アラスカのパイプラインや氷河を撮りつづけ、『アラスカへ行きたい』というガイドブックも共著で出版された写真家の石塚元太良さん。大自然の中に潜っていくようなネイチャー・ライティングの名著が並びました。


アラスカを知る5つの本と映画

談・写真=石塚元太良


『彼女のアラスカ --ベスト・アウトドア・コラム』

バリー・ロペス他著、汀 一弘、駒沢敏器他訳(東京書籍)

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 アメリカのアウトドア雑誌『Outside』に掲載されたコラムのアンソロジー集です。ネイチャー・ライティングの巨匠であるバリー・ロペスの作品も含まれていて、本当に面白い。自然の中に入っていってその体験を書くというネイチャー・ライティングのジャンルは、自分の『氷河日記』を書くときに影響を受けたりもしました。

 タイトル作である『彼女のアラスカ』(デイヴィッド・ロバーツ著)は、アラスカらしい職業といえるブッシュパイロット(辺境の地に小型飛行機で人を運ぶ飛行士)にまつわるエッセイ。1980年代、ただ一人の女性パイロットで、まだ20代後半だったキティ・バナーさんの日常が淡々と書かれています。危険と隣り合わせの仕事を、アラスカでは女性もいち早く就けていたんですね。

 ブッシュパイロットってロマンがあって、でも不思議な職業だなと、自分も彼らにお世話になるたびに思うんです。彼らが活躍したのは1960年代以降ですが、まだ空を飛ぶということが珍しいときに、詩情にあふれたアラスカの景色を見ていたんだろうなあと。


『内なる島 --ワタリガラスの贈りもの 』

リチャード・ネルソン著、星川淳訳、星野道夫写真(めるくまーる)

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 原題で「The Island Within」。いいタイトルですよね。リチャード・ネルソンは星野道夫さんと親交があった作家で、彼の写真が使われています。

 アラスカは地理的に北極圏の極北アラスカや内陸アラスカといった地域があって、この本は主に南東アラスカについて書かれたものです。

 アメリカ人のリチャード・ネルソンが南東アラスカに暮らし、「自然の中で生きる」ことを綴った、素晴らしい文章です。誰もいないところでカヌーをしたとか、一人でサーフィンをして気持ち良かったとか、なんでもない描写が冴え渡っている。

 南東アラスカはレインフォレストと言われるほど雨が多いエリアで、森が深い。水が澄んでいて、ザトウクジラで有名な海もある。森と海と水の近さがこのエリアの自然の美しさをより浮き彫りにしていると思います。先住民コユーコン族の叡智についても、フィールドワークを通して描かれています。


『アラスカ原野行』

ジョン・マクフィー著、越智道雄訳(平凡出版社)

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 アラスカの本を読むようになったのはアラスカに通うようになってからなんですが、もっと早く読んでいたら良かったなと思ったのがこの作品。ニューヨーカー誌で活躍していたライターの体験記ですが、アラスカではこういう旅ができますよ、というガイドブック的な要素もあって読みやすいんです。

 何より彼がすごくタフで、組み立て式のカヌーで、ユーコン川を下ったりとかしている。辺境の地ならではの風景や人との出会いが緻密に描かれていて、先住民にまつわる制度やそれが引き起こした問題、州都がなぜアンカレッジでなくてジュノーなのか、パイプラインやゴールドラッシュのことも含め、アラスカという国の成り立ちがよくわかる本です。

 1976年にアメリカで出版されたものですが、アラスカがまだアメリカ人にとっても未知だった時代に、アラスカを暴くという目的もあったようです。ノンフィクションライターとしての技量が非常に高く、アラスカを知る良き参考書になると思います。


『エスキモー人 日本人の郷愁をさそう北方民族』

祖父江孝男著(Kappa Books)

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 今から60年ほど前の1960年の夏に、日本人の起源を探るためにアラスカの北極圏のツンドラ地帯の北方民族の集落を学術調査した紀行文。

 学術的な記録でありながら、その旅の様子がべらぼうに面白いです。

 特にブルックス山中のアナクトブックパスという人口わずか百人ほどの集落を訪れるくだりは、唖然とするようなエピソードが満載。当時のエスキモー集落では「妻貸し」なる奇習が残っており、妻を一晩貸してくれるという村人たちの申し出に丁重にお断りしたりしていて面白い。


『アラスカ物語』

堀川弘通監督

 アラスカ映画というと『Into The Wild』が有名なのですが、僕は『アラスカ物語』をぜひオススメしたいです。
 
 とにかく物語が途方もなく面白い。フランク安田という日本人が、明治時代にアメリカ沿岸警備隊の船に雑用係として乗るのですが、船の中で差別にあうなどして、結局北極圏のポイントバローに止まることにしたんですね。彼の人生はそこから始まります。エスキモーが住むための村を作って村長になったり、ゴールドラッシュの時代に金を探し当てたり。すべて実話で、壮大なスケールです。
 
 DVDもなく、なかなか見られる機会がないのが残念ですが、新田次郎さんの本とともに楽しみたい作品ですね。


石塚元太良(いしづか・げんたろう)


写真家。1977年東京都出身。19歳からバックパック旅を始め、氷河、パイプライン、ゴールドラッシュなどをモチーフに極地方で独自のランドスケープを撮影している。『PIPELINE ICELAND/ALASKA』(講談社)で2014年東川写真新人賞。2016年、Steidl Book Award Japanでグランプリを受賞。『GOLD RUSH ALASKA』を2021年に刊行予定(Steidl)。現在KOTARO NUKAGAにて個展『Gold Rush California/NZ』を開催中。アメリカのカリフォルニア州とニュージーランドで撮影した〈ゴールドラッシュ〉シリーズの新作を発表している。2020年8月29日まで。

お詫びと訂正