第一回京都文学賞から単行本、2冊刊行!
『羅城門に啼く』
『屋根の上のおばあちゃん』

COLUMN | 2020.12.28

幾多の小説の舞台となり、また、多くの作家を輩出してきた「文学」の都、京都。そんな京都で2019年からはじまったのが「京都文学賞」だ。京都を題材とする小説をジャンル問わずに「一般」「中高生」「海外」の3部門で募集し、応募総数537作品の中から2つの受賞作品がこの2020年に単行本化された。その受賞作を紹介していく。

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『羅城門に啼く』(一般部門最優秀賞)
ときは平安中期。疫病が蔓延し、道には死体や乞食ばかり。殺人や盗みが当たり前に横行して、人の命が簡単に消えていく世の中。芥川龍之介の『羅生門』で描かれているような、終末感漂う京の都が舞台となっている。主人公はイチという悪党。幼い頃に親に捨てられ、身を売られた先で奴隷のように働かされ、雇い主の処罰によって左目を失うという境遇を生き抜いてきたイチは、己の欲を満たすためなら、ためらいもなく人を騙し、殺し、盗み、女を犯す。だがある日、自らの罪で処刑される寸前のところを、通りすがりの空也上人に助けられたところから、話は思わぬ方向に転がっていく。流行病も気にせず自分の身を挺して死人を弔い、病人を癒やす上人の姿を見るうちに、イチのなかでなにかが変わっていく。そしてかつて自分が殺めた親の娘に出会い......。
病と悪が蔓延る世の中、目的のためには手段を選ばない人びと。そして、人を殺すこと、奪うこと、さらには欲をもつことはいけないことなのだろうかという、普遍的な問い。イチの姿が現代にも重ね合わされていく。


『羅城門に啼く』
作者:松下隆一
出版社:新潮社
価格:1600円(税別)

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『屋根の上のおばあちゃん』(一般部門優秀賞)
東京で映画のフィルム現像の職に就いていた哲郎は、デジタル化の煽りを受けて仕事を失い、酒に溺れて自堕落な生活を送っていた。そんなある日、兄からの一本の電話で哲郎は京都に向かうことになる。どうも89歳になる祖母ゑいの様子がおかしいという。病気を心配して会いに来たはずだったが、久々に再会した孫の哲郎をものとりだと思って水をかけて追い払い、減らず口を叩き、料理、畑仕事、掃除、洗濯、身の回りのことは一人でこなす、強情だけれどどこか憎めない祖母。哲郎は気圧されながらも、朧気な思い出しかなかった祖母と、馴染みのない京都の街で、思いがけない二人暮らしをはじめることになる。そのうちに、昭和の激動の時代を生きてきた祖母ゑいと哲郎の物語が交差していき......。
京都は日本の映画発祥の地。パリで発明されたシネマトグラフを輸入して、試写実験が行われたのが四条河原付近だった。小説では、「東洋のハリウッド」とも呼ばれて名作を生み出してきた昭和期の太秦の活気が鮮やかに伝わってくる。東京人の吾郎が、京都人のゑいの間合いに、時間をかけて入っていく様もまた見どころだ。


『屋根の上のおばあちゃん』
作者:藤田芳康
出版社:河出書房新社
価格:1600円(税別)


千年を越える歴史をもつ京都、都会としての京都、カルチャーの発信地としての京都、そしてそこに暮らす京都の人びと。さまざまな京都の顔が見えてくる京都文学賞の作品群。小説のなかの京都を知れば、実際の京都もまた違った視点で歩けるかもしれない。


松下隆一(まつした・りゅういち)
1964年兵庫生まれ。作家・脚本家。「二人ノ世界」が第10回日本シナリオ大賞佳作入選、2020年7月、林海象プロデュース、永瀬正敏主演で映画化。脚本作品に映画「獄に咲く花」、ドラマ「天才脚本家 梶原金八」、「雲霧仁左衛門」、著書に『二人ノ世界』、『異端児』などがある。京都市太秦在住。『もう森へは行かない』(『羅城門に啼く』に改題)で第一回京都文学賞最優秀賞を受賞。


藤田芳康(ふじた・よしやす)
1957年大阪生まれ。神戸大学文学部卒業。サントリー宣伝部にコピーライターとして入社、『BOSS』『なっちゃん』などのヒット商品を生み出す。コピーライター、CMディレクターを経て、2000年に映画『ピーピー兄弟』を脚本・監督。初小説『太秦――恋がたき』(『屋根の上のおばあちゃん』に改題)で第一回京都文学賞優秀賞を受賞。


京都文学賞
文学の更なる振興や「文化都市・京都」の発信等に寄与するため、2019年に設立された文学賞。2020年5〜9月にも第二回目の作品募集が行われ、2021年の3月に受賞作が発表される予定。最終選考委員には京都に縁のある、作家・いしいしんじ、原田マハなどが務める。


主催:京都文学賞実行委員会(京都市,京都新聞,一般社団法人京都出版文化協会 等)
協力:京都府書店商業組合、文化庁地域文化創生本部、KADOKAWA、河出書房新社、幻冬舎、講談社、集英社、新潮社、PHP研究所、文藝春秋、朝日新聞出版、光文社、小学館、祥伝社、早川書房、双葉社、ポプラ社
後援:京都市教育委員会、大学コンソーシアム京都


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