WEB特別連載「世界の癒やし」
大麻へ捧げる狂詩曲

COLUMN | 2021.01.23

201225_4_1.jpg
 
大麻へ捧げる狂詩曲
 
昨今アメリカでもっともホットなトピック、それは娯楽用大麻の合法化とその是非。2016年11月にそれを容認したカリフォルニア州の現在と先行するワシントン州の動向から、私たちの国に必要な論点をあぶり出す。
 
--
NUMA = 写真・文
*この記事はTRASIT36号「カリフォルニア もうひとつのアメリカへ」からの転載です。
--
 
2016年11月8日、まさかの結末を迎えることになるアメリカ合衆国大統領選挙が行われているさなか、とある住民投票が同時に行われていた。それは大麻使用の是非を問うもので、結果、アーカンソー、フロリダ、ノースダコタの各州で新たに医療用大麻の使用が認められ、モンタナ州では10年前に合意された医療大麻利用に関する規制が緩和された。
 
現在全米28州とワシントンD.C.で認められている「メディカル・マリファナ」は目新しい話題ではない。今回大きな注目を集めたのは、娯楽目的のための大麻の所持や利用が新たに4州で認められたこと。その4州とは、メーン州、マサチューセッツ州、ネヴァダ州、そして約20年前に全米で初めて医療用大麻の利用を認めたカリフォルニア州だ。
 
201225_4_2.jpg©︎NUMA
ロサンゼルスのディスペンサリー。「60%の全米市民が大麻合法化を容認。1969年の調査開始以来の最高値」との世論調査をギャラップ社は公表。

 
マリファナを「違法薬物」と認識する私たち日本人には理解を超えた判断だろう。「カンナビス」「ガンジャ」「ハシシ」「チャラス」「ウィード」「バッツ」などさまざまな隠語で呼ばれ、世界中に分布する大麻草という植物。海の向こうで一体何が起き、我々はそれをどのように受け止めるべきか。
 
 
グリーンラッシュの到来。
 
まずはワシントン州のシアトルへ。スターバックスコーヒー、アマゾン、マイクロソフト、またはニンテンドーなどの世界的企業を育んだ、起業家精神を後押しする懐の広い都市だ。2012年、21歳以上であれば合法的に大麻を栽培、所持、使用することを認める法律「Initiative 502」を住民投票により合意、以降新たなビジネスが続々と誕生している。
 
201225_4_3.jpg
©︎NUMA
シアトルの工業地区で大麻工場を運営する〈Doug Star〉。年間3000人あまりのツアー客が見学に訪れる。

 
東京で例えるなら湾岸エリアのようなSODOと呼ばれる地区へ。シアトル・マリナーズの本拠地セーフコ・フィールドがすぐ先に見え、スターバックスコーヒー本社ビルが目に飛び込む工業地区だ。ここは栽培者、加工業者、小売業者が集まるワシントン州における大麻ビジネスの中心地と目されている。現地のカンナビスカルチャーを案内する〈Kush Tourism〉のツアーに参加すると、そのなかにフロリダ州から来た60代の夫婦がいてあれこれと話をした。
 
「退職金の投資先を探しに。カンナビスは新たな産業として魅力的。現場を見たかった」"大麻ツーリズム"が花開くワシントン州。参加したツアーは吸引パイプを製造するガラス職人のもとを訪ね、工業地区の一角で毎週400株相当を生産する大麻工場を視察、さらに大麻オイルを抽出する研究室を見学、そしてディスペンサリーと呼ばれる大麻販売店を回る。
 
201225_4_4.jpg©︎NUMA
繊細なガラスパイプの製造は、もはや職人芸の領域に。

 
この日は地元マリナーズのデイゲームがありショップは若者たちで賑わっている。そうしたなか、買い物途中と思われる中年女性や、ビジネススーツに身を包んだ男性がバッツ(乾燥大麻)を物色している様子が興味深い。
 
「Initiative 502」が発効した2014年7月以降、消費税収はすでに4億ドル(約450億円)を超え、州政府は今後2年間で7.3億ドル(約828億円)の税収を見込む。今後5年で年25%の成長が予測され、そのスピードは1990年代のケーブルテレビ、2000年代のブロードバンド・インターネット産業と肩を並べるとする報告もある。大麻産業に従事する人びとが異口同音に明るい未来予想図を語る様子が、バブルの到来を予感させる。
 
201225_4_5.jpg©︎NUMA
サンバーナーディーノで開催されたカンナビスカップで大麻の苗が販売され人気に。

 
 
4月20日、午後4時20分。
 
"420(フォー・トゥエンティ)"という言葉を聞いてピンとくる人は、その筋のマニアに違いない。由来は不明とされるが、うち一説はこうだ。
─1970年代初頭、サンフランシスコ郊外のサンラファエル高校の5人の生徒が、校内にある銅像の前で放課後の午後4:20に集まりマリファナを吸っていた。彼らは意思疎通のため420という隠語を多用、それがサンラファエルのグレイトフル・デッドのファンの間で伝播した─。
 
かくして4月20日にカンナビスカルチャーを祝う習慣は大麻好きの間で定着し、やがてそれは西海岸のカウンターカルチャー誕生を祝う象徴的な日として世界へと広がった。
 
4月20日の午後、ヒッピームーブメント発祥の地として観光客で賑わうサンフランシスコのヘイト・アシュベリーへ向かう。さらに数ブロック西へ歩いたゴールデンゲートパークで大麻合法化を訴える「国際マリファナデー」を祝うイベントが行われているのだ。成人に娯楽用大麻の栽培や使用を認める「Proposition 64」が2016年11月に約57%の賛成により承認されたことを受け、イベントは祝賀ムード一色。
 
201225_4_6.jpg©︎NUMA
サンフランシスコで「420」を祝うイベントでハイになる女性。頻繁に発生するアルコール絡みのような暴力沙汰は、大麻の場合一切起きない。

 
この稼ぎ時を逃すまいと大麻を非合法に販売する売人たちも駆けつけ、まるで年末のアメ横で聞くようなドスの利いた声を張り上げ、エディブルと呼ばれる大麻入り食品やプレロール・ジョイント(すでに巻かれた乾燥大麻)を次々と捌く。ローカルTV局の推計によれば約15,000人の群衆が、まるでピクニックに訪れるようなカジュアルさで集い、ステージから聞こえるレゲエの旋律に身を委ねながら、のんびりと日光浴を楽しむ。
 
201225_4_7.jpg©︎NUMA
空腹状態でエディブルを食べると効き目が倍増する。

 
午後4時を過ぎた頃から人びとは立ち上がり、新たなジョイントに点火して勝利を意味するVサインを高々と掲げたり、自分がマリファナを摂取する様子を自画撮りしてSNSに投稿したりして喜びを表現する。そして4時20分を迎えると広々とした会場は火事遭遇したような煙に覆われ、灸とセージの匂いを混ぜ合わせたような大麻特有の青臭さで満たされた。居合わせた人の誰もが堂々とマリファナを消費し、警察やパークレンジャーは銃器やガラス瓶の持ち込みに目を光らせるのみ。
 
201225_4_8.jpg©︎NUMA
2016年、娯楽用大麻の合法化が法律化されたカリフォルニア州サンフランシスコのゴールデンゲートパークで行われた通称「国際マリファナデー」。

 
ヒッピームーブメントが頂点に達した1960年代の末、アメリカ市民の8割以上が大麻を"違法"と考えていた。それからおよそ45年、天国にいるジュリー・ガルシア(故人、グレイトフル・デッドのリーダー)は、満面の笑みでこのクレイジーな光景を見守っているに違いない。
 
 
大麻の是非、その先にあるもの。
 
似たような光景は同じ週末、カリフォルニア州南部のサンバーナーディーノでも繰り広げられていた。1974年の雑誌剏刊以来、大麻を取り上げる硬派なメディアとして信頼を集める『HighTimes』が「Cannabis Cup So-Cal」を開催、数百の出展ブースは大麻関連ベンチャーがひしめき、その盛況ぶりが大麻ビジネスへの期待値を裏付けていた。来場者の大半は大麻を愛するカンナビスカルチャーの当事者たち。しかし、そのなかに睡眠障害を抱えた者や投薬治療を好まない者、何らかの病を抱えた患者の姿が目につく。彼らは大麻治療に関する最新の知識を収集している。
 
ロサンゼルス郊外のオレンジ・カウンティで、医療用大麻を長年服用するジャッキという女性と出会った。彼女は神経線維腫症という、全身の皮膚に小さな腫瘍が現れる難病を患っている。
 
201225_4_9.jpg©︎NUMA
自らの大麻経験をPodcastで発信するジャッキ。「大麻の喫煙は美味しいワインを飲んでリラックスするのと似ている」

 
「皮膚や骨の痛みに効果があって、ピルのような副作用がほとんどない。疲れているときや元気を出したいときにもマリファナは効果的」
 
重い副作用に疑問をもち10年に及ぶ薬物治療に見切りをつけ、医療用大麻を利用するようになった。彼女はPodcastで自分の病状の経過についてレポートしつつ、大麻に関する法律や世界情勢などを番組内で紹介している。正しい認識を世界中の人と共有したいと願っているがゆえの行動だ。
 
201225_4_10.jpg©︎NUMA
ロサンゼルスのロングビーチにはさまざまな人が集まる。マリファナ愛好家の聖地ともいわれる。

 
私たちは主要先進国で唯一、医療用大麻の研究が禁止されている国で暮らしている。そのためか大麻に関する世界的な医学報告を日本語で読む機会は少なく、徐々に明らかになる大麻草の治療効果に関する議論から耳を塞いでいる状態だ。もしも「違法だから」という理由だけで新たな事実と距離を置く状態が今後も続けば、例の"ガラパゴス化"は日本の医療分野にまで及ぶかもしれない。それ以上に怖いのは、思考を放棄して与えられた情報を鵜呑みにする盲目さだ。
 
つまり私たちがまず最初に論じるべきことは、大麻の是非ではなく、議論を重ねて合意を形成する民主主義のあり方についてではないだろうか。私はこう思う。アメリカで加速する大麻合法化への動き。それは無条件で権威に同調し、少数意見を無視する傾向の強い私たち日本人に、ひとつの踏み絵を課しているのではないか、と。
 
 
 

お詫びと訂正