<TRANSIT VOICE 旅するポッドキャスト>
第11回のテーマは「小さな言語が教えてくれること」

VOICE | 2021.05.06

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<Spotify>オリジナル・ポッドキャストシリーズ「#聴くマガジン」の『TRANSIT VOICE 〜旅するポッドキャスト〜』。5月6日配信回のゲストは、言語学者の吉岡乾さんです。





現在、世界には7000もの言語があります。
そのうち、1言語で億単位の話者をもつのは10ほどで(中国語標準話は約9億人、英語は3.7億人、日本語話者は1.2億人)、話者数が1000人からわずか2人、1人という消えそうな言語もとても多いのです。


その半分以上は、文字のない「無文字言語」といわれています。


今回のゲストは、インド・パキスタン北部の山奥で話されている7つの小さな言語をフィールド調査し、記述式に研究している言語学者の吉岡乾さん。文字のない言語を調査するとはどういうことなのか、お話を伺いました。




もともと吉岡さんが大学で専攻したのはパキスタンの国語であるウルドゥー語。
大学院に進む際、ウルドゥー語で言語調査ができる系統的孤立語・ブルシャスキー語を学ぶことにしたのだとか。そこから、パキスタン北東部から西で使われているドマーキ語、シナー語、コワール語、カラーシャ語、カティ語。そしてインド北西部で話されているカシミーリー語の7つの言語をメインに現在も調査しています。



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『現地嫌いなフィールド言語学者、かく語き。』 吉岡乾著、創元社



地理的にも情報的にもアクセスしづらい言語の調査には、現地で協力者を探し、言語を聞き取り、単語やことわざを集め、物語や昔話、対話などありとあらゆるテキストを集めて、何度も聞いて文字起こし(吉岡さん独自の書紀法で)......の繰り返しが必要になります。その文化や環境を知るためにはその土地に行かないとわからないことも多い、だからフィールド調査を行うのです。


あまり協力的でない情報提供者(インフォーマント)の愚痴や、フィールド調査の現場であるパキスタンに感じる不満なども率直に著しているこの『現地嫌いなフィールド言語学者、かく語りき。』は「言語学」について知る入門書としても最適です。


「その研究をして、どんな社会的意味があるのか」という問いかけに、はっとさせられる答えも。(ーー「好まれる「研究」と、じれったい研究」)




母語話者が100万人以下の言語を「少数言語」と定義し、消滅の危険度が比較的高いことが多い「なくなりそうなことば」を吉岡さんがまとめて紹介したのがこちら。


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『なくなりそうな世界のことば』 吉岡乾著、西淑イラスト、創元社




世界各地の「そのことばらしい」単語を見開きごとに紹介しているのですが、たとえば......。


ペルー南部山岳地帯で話されているアヤクチョ・ケチュア語の「ルルン」
 --豊富に実っている農作物が大量になっている様のこと。


インドネシア・カリマンタン島で話されているドホイ語の「ボロソコマダップ」
 --莫大な量の小さな何かが降る。


そしてアイヌ語(流暢なアイヌ語話者は3〜5人!)の「イヨマンテ」
 --熊祭り。


どんな人たちがどんな生活の中でこの言葉を話しているのか、思いを巡らせるのが楽しいですよね。



言語に、良いも悪いも、優れている・劣っているもない。言語自体の言語学的価値は、あらゆる言語、並べて等しい。しかし道具としての有用性を考えるとやはり等しくはないわけで、なくなってしまう言語もあるのです。吉岡さんの研究が私たちに教えてくれることは、世界各地のあらゆる言語に対する敬意と、大きな言語話者がもつ暴力性に気づくことなのかもしれません。




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