京都企業はなぜ強い?
職人と大学に育まれたアイデンティティ
【52号 小さな京都の物語を旅して】

Info | 2021.06.28


世界的企業を多く輩出している京都。

独自の哲学と、長い時間軸で経営を考える伝統は、 職人文化と若者を育む大学に支えられている。


好評発売中の「TRANSIT52号 小さな京都の物語を旅して」では、京都に本拠地を置く主要な企業を複数の系譜で読み解き、京都式経営の真髄を探りました。

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「ジャパン・アズ・ナンバーワン」と日本式経営がもてはやされたのは昔の話。もの作りを得意とする日本の企業は、台頭するアジア企業との競争に破れ、デフレ下で利益も低減している。
 
そんななか奮闘しているのが "京都企業" だ。
 
世界的なリーディングカンパニーから、伝統文化に裏打ちされた老舗企業、新進気鋭のベンチャー、大学発のスタートアップまで。
他の追随を許さない独自の製品やサービスで高収益を確保している企業が目白押しなのだ。
 



 
<任天堂>
花札からゲームの世界へ
1889年に花札を製造する企業として創業し、その後日本で初めてトランプを製造した。1983年に家庭用ゲーム機「ファミリーコンピュータ」を発売し 、 現在は「Nintendo Switch」などゲーム専用機のハードウェアおよびソフトウェアの開発・製造・販売を行う。2020年には、無人島で生活をするゲーム「あつまれ どうぶつの森」が社会現象となった。


 

<村田製作所>
清水焼の技術で世界1位に
清水焼の製陶所などを営む一家に生まれた村田昭が1944年に創業し、焼き物の技術を土台に作り上げたセラミックコンデンサ(電気を蓄えたり放出したりする部品)などで世界的企業へ。2020年度の売上高は1兆6302億円。現在の主力商品である積層 セラミックコンデンサは世界シェアNo. 1で、あのアップルも頼りにする。



 

<堀場製作所>
元祖大学発ベンチャー
1945年に、京大出身の堀場雅夫が、大学ベンチャーの先駆けとして創業。pHメーターが大ヒットして計測器メーカーに。自動車排ガス測定装置は8割、半導体製造装置向けのガス流量制御機器は6割と、ニッチな分野で圧倒的な世界シェアを誇り、2015年のフォルクスワーゲンの排ガス不正発見では同社の製品が使用された。


 

<オムロン>
ビジョナリーな"黒子企業"
自動改札機やヘルスケアだけでなく、工場自動化 に必要な制御機器など身近な生活を支える事業で発展。2020年度売上高は6555億円。創業者の立石一真は、技術者と経営者という二つの顔をもち、1970年、未来を予測するSINIC理論を発表。 親交のあった世界的経営学者ピーター・ドラッカーもビジョナリーな面を評価。


 

<開化堂>
自由な発想で伝統を刷新
1875年に創業した茶筒の老舗で、手作りの手法を守りつづける。高い気密性を誇るがゆえ、蓋と胴を合わせて手を離すと蓋が自然に閉まっていくほど。6代目八木隆裕は、京都伝統工芸の後継者らとクリエーティブユニットGO ONを設立。パナソニックと協同したスピーカーは、海外で賞をとるなど高く評価された。


 


<田中伊雅佛具店>
仏具に携って1000年超
仁和年間885年に創業した、主に真言宗をはじめとする各総本山御用達の仏具店。日本にわずか数社しかない業歴1000年を超える「1000年企業」のうちの一社で、京都府内の製造業では最古の歴史をもつ。老舗ならではの職人の匠な技術と現代のテクノロジーを用いて、他社にはないオリジナルの寺院仏具を製作しつづけている。

 


<細尾>
果敢な試みで西陣織に革新を
1688年に西陣で創業した織屋の老舗で、 市内にフラッグシップストアをもつ。近年は、西陣織をテキスタイルとして広幅で展開し、クリスチャン・ディオールのほか多数のラグジュアリーメゾンやホテルの内装として国内外に広めている。また、研究所や大学との共同研究も積極的に行い、西陣織に革新を起こしている。

 

 
<一文字屋和輔>
あぶり餅一筋で市民を笑顔に
京都に蔓延した疫病や災厄を鎮めるために、今宮神社が建立されたのとほぼ同時期の1000年に創業された和菓子店。以来、「あぶり餅」一筋。上品な味噌の甘みと炭で焼いたお餅の香ばしさが、かつては無病息災を願う庶民に、今は地元の人と国内外から訪れる観光客に、安らぎをもたらしている 。 掲載しているのは、伝統ある屋号の紋。


 



<GLM>
京大発の和製テスラ
元社長の小間裕康が京大のMBAコースで電気自動車プロジェクトに参加したことをきっかけに2010年創業。2014年には伝説のスポーツカー「トミーカイラZZ」をEVで復活させ、その美しい車体から "和製テスラ" とも。EVのプラットフォームビジネスにも進出し自動車業界の刷新をめざす。



 
<はてな>
京都ベースの"へんな会社"
京大に通った近藤淳也が2001年に創業。ブログサービス「はてなブログ」、 ソーシャルブックマークサービス「はてなブックマーク」は多くのネットユー ザーに親しまれ、日本のIT黎明期に大きな足跡を残す。一度は東京に拠点を移したが、世界に通用するサービスをじっくり作るため2008年に開発拠点を京都へ戻した。
 



<アトミス>
京大発の技術ベンチャー
ガスの貯蔵が可能な多孔性配位高分子の技術を事業化すべく、2015年に創業。ノーベル賞受賞が有力視されるほどの素晴らしい研究成果を出しても、ビジネスの機会を海外に奪われてしまうことに危機感を抱いた京大の同期3人が起業。次世代高圧ガスボンベやガスを活性成分に用いた医薬品を開発している。


 


<ハカルス>
人によりそうA I 企業
人工知能を使ったデータ解析サービスを提供する、2014年創業のスタートアップ。医療分野と産業分野を中心に「少ないデータで使えるAI」を実現する。特徴は、独自のスパースモデリング技術を用いて人間が解釈可能なAIを開発していること。匠の技をテクノロジーで見える化し、次世代につなげていくのが京都流だ。

 


<ローム>
立命館大発の京都ドリーム
1954年、創業者の佐藤研一郎が、立命館大学在学時に考案した炭素皮膜抵抗の特許をもとに創業。その後、半導体に挑戦し、1971年には、日本企業で初めてシリコンバレーへ進出する。現在、小信号トランジスタ・ダイオードで世界トップシェアを誇り、省エネのキーデバイスとして注目のSiCパワー半導体で世界をリードする。


 


<京セラ>
アメーバ経営で常勝企業へ
JAL再建への貢献など名経営者として知られる稲盛和夫が1959年に創業。TVのブラウン管に使うセラミック部品の製造から始まり、現在は電子機器、 情報機器、通信機器など経営を多角化。組織を独立採算で運営する小集団に分け、社員の意識を高めるアメーバ経営により、日本の経営手法にも多大な影響を与える。


 


<島津製作所>
人と地球の健康のための科学
1875年創業の精密機器メーカー。医療、食品、環境分野をはじめ、人びとの暮らしにかかわる各種産業・分野に、分析計測機器、医用機器、産業機械、 航空機器を提供する。2002年に社員の田中耕一がノーベル化学賞を受賞。国内外の大学や研究・医療機関などと最先端の研究や技術開発を行い、感染症対策にも取り組んでいる。

 



<日本電産>
EVを征し、めざせ10兆円企業
日本を代表する経営者・永守重信が、1973年に自宅のプレハブ小屋で創業。精密小型モーター製作を軸に町工場を世界的企業へと成長させ、2020年度は1兆5348億円(連結)を売上げた。近年は自動車業界の激変に目をつけ、電気自動車用のモーター製造にも進出。2030年度に売上高目標10兆円を公言するなど大きな野望を掲げる。




堀場製作所の堀場厚会長は、経済メディアの取材で、京都では規模が小さくても、何代もつづくビジネスが評価されると述べている。ビジネスを持続するには、他社が考えつかない経営手法や、「売り手よし、買い手よし、世間よし」という「三方よし」の利他の精神など、商売の本質の理解が不可欠だと、京都の経営者は知っているのだ。


そんな京都ならではの経営文化を生んだのが、室町時代から約500年つづく職人文化。伝統産業を土台に世界的企業へ成長した村田製作所などがその典型だ。


京都府内に30校以上ある大学の存在も京都拠点の企業に欠かせない要素。約145万人の人口のうち1割を学生が占める京都市では、常に新しい人材が育ち、ユニークな発想をもった数々のベンチャー企業が誕生している。


着物などの伝統産業で、斬新な戦略を打ち出して世界をめざすクリエーティブブランドも注目だ。

老舗企業の多くは創業家が経営するため、長い時間軸で経営を考えると同時に、斬新な施策を実行することもできる。


京都は職人や大学の文化をベースに独自の経営哲学を育んできた。そして、そんな企業を舵取りする経営者がネットワークを築いて切磋琢磨する。 顧客本位で付加価値が高い "ほんまもん"を生み出せなければ、価格競争に巻き込まれる現在のビジネス環境を生き抜くことは難しいだろう。


京都の企業は伝統と革新を土台に、唯一無二の流儀で荒波を乗り越えていく。



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「TRANSIT52号 小さな京都の物語を旅して」は、日本が世界に誇る「京都」について深く知ることができます。伝統と新しさ、独自の文化が育まれた京都に想いを馳せて、旅してみてはいかがでしょうか。

お詫びと訂正