元・京大総長に訊いた!
「学歴は気にしない。
学びに没頭できる京都の教育環境」
【52号 小さな京都の物語を旅して】

COLUMN | 2021.07.01

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©️James Wang
 
ノーベル賞受賞者を多く輩出するなど研究に秀でている大学、伝統工芸やポップカルチャーが学べる芸術系の大学など、京都には幅広いジャンルの個性的な大学がある。さらに華道や茶道に特化した中学や高校や専門学校もあり、ユニークな学び場も多い。

「京都では、たとえば東京など他の地域に比べて、教育に対する意識が違うのでは?」そんな問いを出発点に、京都の学びを理解する4つのデータを収集。元・京都大学総長の山極壽一氏のインタビュー内容を引用しながら、京都の教育環境や京都人の学びの姿勢について解説していく。
 
 
①学生密度全国No.1!
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このデータは、都道府県の総人口に対する大学生・院生の数の割合で、京都が堂々の全国1位。京都市に絞ればその割合はさらに上がり、都市の人口約146万人に対し、学生は約15万人。つまり1割が学生ということだ。山極氏曰く、京都では「石を投げれば学生か坊主に当たる」とよく言うそう。市内にはお寺が1500人ほどあるため、お坊さんも多いのだ。
 

「要するに京都には、国家に対して税金を払っているという意識が薄い人たちが多いんですよ。お寺や神社というのは無税ですからね。ある意味、『自由な人』たちが巷(ちまた)に溢れているということです」(山極氏)
 

ちなみに上のデータでは滋賀が6位にランクインしているが、13校しか大学がない滋賀が上位に入っているのは、京都に本部を置く立命館大学や龍谷大学などのキャンパスがあることが影響していると言えそうだ。
 
 
②京都府内の大学は34校
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京都府に本部がある34大学の内訳は、国立3校、公立4校、私立27校。これらのうち9校が仏教系の大学、 また6校は芸術系で伝統工芸を学べる大学もある。バラエティ豊かな専攻が目立つのが京都の大学で、とくにマリ出身のウスビ・サコ氏が学長を務める京都精華大学は、日本初のマンガ学部やポップカルチャー部など、ユニークな学部がある。
 

「京都人ってあんまり学歴を重視しないんですよ。京大や私立の雄といわれる関関同立だけでなく、仏教系や芸術系のユニークな大学も多くありますが、大学生自身もあまり格差を気にせずに付き合えていると思いますね。京都には、職人性や教養を重視する姿勢があるのかな、と思います」(山極氏)
 
 
東京にはたくさんの大学があり、国立大学でも一橋大学や東京工業大学のように、ある分野に専門化された大学が多くあるが、そうすると分野別に格差ができてしまう。山極氏は「京都はいうなれば"混ぜご飯"。大学の数やコミュニティの大きさが、競争が生まれることを防ぎ、多種多様な人が絶妙に混ざり合っています」と語る。
 
 
③国家公務員の試験合格率は2位
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いわゆる官僚になるための「国家公務員採用総合職試験」の出身大学別合格率は、1位が東大で、2位が京大。過去5年間でこの2校の順位は変わっていない。だが、ひと昔前までは京大の学生が官僚を目指すことは少なかったんだとか。京大は「自由の学風」を基本理念のひとつに設立された学校。
 
 
「社会に出て役に立つために勉強するのではなく、研究を深めて新しい世界を創造する。京大の研究者には『まずはこの世界の仕組みを知りたい』という精神があると思います」(山極氏)
 
 
こう山極氏が言うように、京大には研究を重視する姿勢がある。ちなみに、逸話としてかつて京大法学部の学生は国家試験を受けないことで有名だったらしい。それも先ほどと同じ理由で、社会に出るために勉強をしようというのではなく、研究により今の社会ともっと違った見方をして新しいものを生み出そうとする気概があったということだ。
 
 
④京大出身のノーベル賞受賞者数は8人
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多くのノーベル賞受賞者を輩出しているイメージがある京大。日本の出身大学別ノーベル賞受賞者数を見ると、実は東大が11人で、京大は8人。"京大にゆかりがある人"を入れると全部で11人になる。教育・研究機関の規模としては東大が圧倒的なのにも関わらず、京大に関連する受賞者が多いのは、研究を重んじる京大の校風によるものだといえる。
 
 
「研究の世界では、教師も学生も切磋琢磨する存在であって、学生が師を乗り越えたっていいんです。京大では、教授 は生徒に『先生』ではなく、『さん付け』で呼ばせます」(山極氏)
 
 
京大では、学生は単に教育される存在ではなく、学生と師の関係性はフラットだ。山極氏は京大理学部で博士の学位をとる際に、審査員が5人いたと話す。そのうち2人は自分で選べる、つまりは自分の説を擁護してくれる人を2人選ぶことができる。つまり、あと1人を説得して過半数の票を得れば合格できるということになっていた。
 
 
「このように、前例に反する新鋭のアイデアにも認められる可能性が開かれているからこそ、ノーベル賞につながるような学問が出てくるのだと思うんです」と山極氏。師の後追いではなく、新しいものを取り入れながら高めていくのが京大流の学問なのだ。
 
 
のびのびと多様なジャンルの研究に没頭できる環境、そして学歴を気にしない京都人の学びに対する考え方。学ぶ人にとって、風通しのよい理想的な教育環境が、京都を「学生の町」にたらしめたのかもしれない。
 
 


山極壽一(やまぎわ・じゅいち)●1952年、東京生まれ。理学博士。78年からアフリカ各地でゴリラの研究に従事。88年から母校の京都大学に勤め、教授や理学部長などを歴任し、2014〜20年は総長を務めた。現在は総合地球環境学研究所所長。近著に『人生で大事なことはみんなゴリラから教わった』(家の光協会)。



*TRANSIT52号京都特集のP166-167の「学歴より教養が大切 京都人の学びの流儀」企画には、ここで紹介した山極壽一先生のインタビューの全文が掲載されています。ぜひご覧ください。


text=ANNA HASHIMOTO

お詫びと訂正