海辺の京都へ小旅行!
宮津・伊根・京丹後の水辺の町を巡り
日本海側の歴史文化をたどる
【52号 小さな京都の物語を旅して】

COLUMN | 2021.07.02

京都と海。あまりイメージが浸透していないかもしれないが、京都府北部は日本海に面していて、魅力的な港町がいくつもある。海と山に囲まれ、市内とはまた違ったのどかさがあるとともに、古くから水揚げ港や貿易港としての生活文化があり、神社や古墳、歴史ある景勝地なども多い。京都の北端部「丹後エリア」にある宮津・伊根・京丹後、3つの水辺の町を巡る小旅行へ。
 
まずは宮津市にある〈天橋立〉からスタート。日本三景のひとつで、全長3.6kmの砂州に5000本の松が密生する、自然が生み出した景勝地だ。百人一首でも和泉式部の娘・小式部内侍の歌に登場し、古くから日本人の心を掴んできた神秘の造形。海原を横断する様子は、龍が天に昇る様子にも見立てられてきた。展望所から眺めるだけでなく、渡ることもできる天橋立。歩くと片道50分、自転車に乗ると20分。景色を見ながらゆっくり楽しんでみるのもいいだろう。
 
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©️km058
 
〈天橋立〉
京都府宮津市

 
 
次に向かったのは、日本神話のルーツがうかがえる〈元伊勢籠神社〉。伊勢神宮に祀られる豊受大神(とようけのおおかみ)の故郷で、天照大神(あまてらすおおみかみ)が伊勢へ遷る以前に、大和からこの地へ巡幸したと伝わる。そのため、「元伊勢」と呼ばれている。天照大神の孫神で、丹後や丹波地方を開拓し、養蚕や稲作を広めたと伝わる神、彦火明命(ひこほあかりのみこと)を主祭神に祀っている。
  
さらに近くには奥宮である〈眞名井神社〉も。古代の祭祀形態である磐座(いわくら)が木々に囲まれ静かに鎮座している。神社がまだなかった時代、人びとは巨木や巨岩石、島や川など自然物に神々が籠もると考え、崇拝の対象になっていた。ちなみに眞名井神社は古くから人びとにとって神聖な地であったようで、縄文時代の石斧や弥生時代の勾玉などが出土している。神社の脇の井戸には、天上(神々の住む天上の国)より遷されたとされる霊水「天の眞名井の水」が湧き出ていて、全国各地から汲みに来る人がいるのだとか。
 
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〈元伊勢籠神社〉
〈眞名井神社〉
京都府宮津市字大垣430
開門時間:7:30~ 17:00

 
 
お参りを終えたら、ランチへ。〈aceto(アチェート)〉は、120余年つづく酢蔵・飯尾醸造が経営するイタリア料理店。酒粕や酢の搾り粕、凝縮した酢酸菌エキスなど、お酢屋ならではの食材や調味料を使い、シチリアで修行したシェフがイタリアンに融合させている。名物の間人蟹(たいざがに)や寒ブリ、とり貝などの魚介、丹後コシヒカリや万願寺とうがらし、ジビエなど、丹後の山海の幸がふんだんに取り入れられており、食べれば丹後の風土を感じることができる。とくに、丹後の魚を焦がして作ったソースに、米ぬかでとろみをつけた「無農薬玄米のリゾット」は、ここでしか食べられない一品だ。
 
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aceto(アチェート)
〒626-0016 京都府宮津市新浜1968
営業時間:18:00~23:00(最終入店 20:30)

 
 
丹後の港町の生活文化を知るには、〈伊根の舟屋〉へ。1階が舟置き場で2階が居住スペースのユニークな家屋が、伊根湾のほとりに230軒ほど建っている。運がよければ、漁師たちが1階で出漁の準備をする様子が見られるかもしれない。「もんどり漁」といって食材を入れたカゴを舟屋の軒先に沈める、原始的な魚罠だ。もっと文化について詳しく知りたい人には、京の海の伝統漁を体験できるガイドツアーもある。
 
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〈伊根の舟屋〉
京都府与謝郡伊根町平田77

 
 
次は海沿いに1時間ほど車を走らせ、京丹後へ入る前に〈琴引浜掛津海水浴場〉に寄り道。足で踏むと「クックッ」と音が出る「鳴き砂」の浜で有名な全長1.8kmの海岸で、日本の渚100選にも選ばれている景勝地だ。7月中旬から8月中旬にかけては例年、海水浴場を開設しているので、タイミングが合えば海に入るのもいいかもしれない。
 
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〈琴引浜掛津海水浴場〉
京都府京丹後市網野町掛津

 
 
さて、いよいよ最後の港町、京丹後へ。〈史跡網野銚子山古墳〉は、日本海側最大、墳丘長(全体の長さ)201mの前方後円墳。そもそも、丹後エリアには奈良時代に律令国として成立していた丹後国があり、それ以前の古墳も多く残っているのだ。古墳時代には葺石(ふきいし)や丹後型円筒埴輪で整備され、有力な地方政権があったと推定される。頂上からは日本海が一望できて気持ちがいい。
 
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©️京丹後市教育委員会
 
〈史跡網野銚子山古墳〉
京都府京丹後市網野町網野188

 
 
さらに古墳時代から遡り、縄文時代を起源とする伝統工芸が丹後にはある。〈遊絲舎(ゆうししゃ)〉は丹後に伝わる日本最古の原始布「藤布」の技を継承し、さまざまな体験プログラムも開催している。藤のツルの中皮を繊維に加工し、糸にして織り上げられたものだが、1本のツルから採れる繊維は5gとごくわずかで、その製作工程には膨大な時間と手間を要する。この原始布に織物の技術と感性を融合し、現代に伝えるのが遊絲舎の小石原将夫さんと充保さんの親子。絹の優美さと藤の力強さが織りなす、野趣あふれる風合いが魅力だ。
 
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遊絲舎(ゆうししゃ)
京都府京丹後市網野町下岡610

 
 
お土産を買うために訪れてほしいのが〈木下酒造〉。木下酒造は京丹後久美浜で1842年に創業。冷酒や常温、燗などさまざまな温度で違いを楽しむことができる酒、また開けてすぐだけでなく時間を置くことで熟成度が増して美味しさが増すようなユニークな酒をつくっている。原料には京都府産の祝(いわい)や、無農薬栽培米を使用。180年の歴史を誇る「玉川」は、山廃ならではのコクのある味わいだ。2007年からイギリス出身の杜氏が腕をふるい、それまで日本酒になかったような新しいジャンルを開拓している。また、丹後エリアには、ほかにも熊野酒造、白杉酒造、向井酒造、ハクレイ酒造など多くの酒蔵がある。
 
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木下酒造
京都府京丹後市久美浜町甲山1512
営業時間 9:00~17:00
(1月1日を除く)

 
 
宿泊は〈丹後の湯宿ゑびすや〉へ。奈良時代から自然に湧き出る京都最古の木津温泉や、丹後の美食を楽しめる、大正レトロな老舗旅館だ。松本清張が『Dの複合』を書き上げた宿としても有名で、当時の面影が残る大正館には、清張が2カ月寝泊まりしていた部屋や調べ物をしていた書斎が残されている。
 
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丹後の湯宿ゑびすや
京都府京丹後市網野町木津196-2

 
 
京都北部、海のそばにある京都の姿。日本海側の歴史文化の深さも知らなくてはもったいない。

 
 
▼今回紹介したスポットをマップにまとめました。


*施設の営業日や営業時間は、HPをご覧いただくなどして各自ご確認ください。

TRANSIT52 京都特集の「京都郊外学習」企画にも、京都市以外の魅力溢れる郊外の京都スポットを紹介しているので、合わせてお楽しみください!


text=ANNA HASHIMOTO


お詫びと訂正