〈CoCo壱番屋〉創業者・宗次徳二
「ここが一番だ」と思えた家庭的で
おいしいカレーを届ける
【53号 世界のスパイスをめぐる冒険】

Info | 2021.09.16


 現在発売中の「TRANSIT53号 世界のスパイスをめぐる冒険」は、近年空前のブームを迎えている「スパイス」に焦点を当てた一冊です。

 本誌では、「日本カレー狂時代」と題して、日本人によってカレーとは何なのか、なぜ我々はこんなにもカレーに熱狂しつづけるのかを探る企画を用意しました。

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 この記事では、〈カレーハウスCoCo壱番屋〉創業者の宗次徳二さんのインタビューを抜粋してお届けします。
 


ココイチのカレードリーム
 
1軒の喫茶店から始め、〈カレーハウスCoCo壱番屋〉を全国に700店超展開するまで成長させ、53歳で引退した宗次徳二さん。妻の直美さんと進んだ道のりは、家庭的でおいしいカレーを届けるという目標達成に向けた努力と感謝の心の賜物だった。
 
 
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 1974年に名古屋でバッカスという喫茶店を始め、客商売のおもしろさに目覚めました。体はきついけれど、来てくださるお客様に喜んでもらおうと必死でした。もっと売り上げを伸ばそうと出前を始めたとき、カレーもメニューに加えました。あらゆる缶詰やレトルトのカレーを試したけれど、気に入るものがなかったので、直美がいつも家で作っていた固形のルウにいろいろ手を加え作ったカレーを出すことにしました。
 
 彼女がスパイスを調整してカレーを作り、私やスタッフが食べて評価するという試行錯誤を繰り返した結果、1日20~30食出るようになり、こんなに売れるならと次の店はカレー専門店に決めたのです。リサーチのために東京でカレー店を10軒ほど回りましたが、どの繁盛店よりも直美のカレーのほうがおいしいと自信を得ました。
 
 帰りの新幹線で、「ここが一番だ」ということで屋号を〈カレーハウスCoCo壱番屋(ココイチ)〉に決めたのです。そこからはほかの店が何をしようと無関心でした。お皿は温め、カツは揚げたてを出すなど、目の前のお客様を大切にすることを繰り返しました。
 
 最初は1日の来客数が10人ほどで1カ月の売り上げも数十万円でしたが、そのうち商売が軌道に乗ってきたので多店舗展開を考えました。初めの目標は10軒です。1軒当たりの月商が150万円だとして、10軒だと年商が1億8000万円。人には言えないような大きな目標でしたが、達成しようと必死に働きました。
 
 直美とは二人三脚で、お互い不足しているところを補い合う関係でした。社長の私は現場第一主義で店の仕事を通してアイデアを思いつき、全国展開するとかフランチャイズをやるとか決めていく。直美は交渉が上手なので、銀行から資金調達する。ピーク時には155億円の借り入れがありましたが、どうせゼロから始めたのだから思い切ってやればいいじゃない、というのが彼女の口癖でした。
   
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社会への貢献を是とする経営哲学。
 
 1号店を出してから7年後に京都へ出店したときは、外国に出すぐらいの気持ちで身構えていました。その後、東京の荻窪へ出店するときに初めて全国を意識しました。
 
 ココイチが全国で店舗数を増やすのに要になったのが暖簾分けです。従業員に店の狭い休憩室で将来のことを聞くと、ほぼ全員が飲食店をもちたいと言いました。そこで彼らを支援する制度をと、ココイチで2~3年働いた後にフランチャイズ契約できるようにしたのです。自社で作っているカレールウで十分に利益が出ていたため、ロイヤリティはとりませんでした。社員にとっても頑張れば独立でき、利益も出せるのでやる気につながったと思います。なかには30軒ほど店を出す人もいました。
 
 私がココイチの社長を退いたときは、1994年に初めて海外に進出したハワイ・オアフ島の店舗を含めて全国に700店ほど展開していました。現在は、国内と13の海外の国と地域を合わせて1472店あります。そして、新しい経営者の下で100カ国、2万店をめざしています。
 
 引退してからは、お金は人のために使おうと思いました。会社が発展したのは、多くの人のおかげであることに間違いないからです。現在はNPO法人や音楽ホールを運営し、若手音楽家の育成、困窮家庭や障害者の支援などをつづけています。誰かのために使うと、価値が何倍にもなるのです。今は朝の4時頃に起きて、名古屋市内中心部にある宗次ホール周辺の掃除と、路上での花植えを2〜3時間かけてしています。水をやると葉も青々としてきますし、一輪でも多く咲かせたいと思っています。
 
 ココイチのカレーは個性的な味ではなく、家庭的でみんながおいしく食べられるものです。それが結果的に飽きのこないカレーとして万人に受け入れられ、チェーン店展開にも有利に働いたと思います。ラッキーでしたが、それはあとでわかったこと。本当に自分が出したい一品があるなら、まず始めてみるといいでしょう。
 
 スタートすると毎日現実を思い知らされますが、そこからが本当のスタートです。誰にでもチャンスはありますが、多くの人はよそ見して会食へ行ったり、遊んだりします。それぞれ人生の価値観ですが、経営者の一番の幸せは経営でうまくいくことだと私は考えます。会社が成長すれば、社員の給与も上げられますし、社会にもお返しできます。だからこそ年に数えるほどしか休まず、53歳まで約28年間働きつづけました。歯を食いしばってやりつづけると、お客様に思いが通じるようになるのではないでしょうか。
  

むねつぐ・とくじ●カレーハウスCoCo壱番屋創業者。不動産業と喫茶店経営を経てカレーハウスCoCo壱番屋を創業し、夫婦で全国チェーンへ成長させる。現在は、NPO法人イエロー・エンジェル理事長、宗次ホールオーナーとして慈善事業に力を注ぐ。

 


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スパイスのルーツを遡れば、古代エジプトではミイラの保存に用いられていたり、中国では漢方薬として医療に処方されてきた歴史もある。大航海時代にはスパイス原産地の利権をめぐりスパイス戦争なるものも巻き起こった。私たち人類は、スパイスとともに人生を、歴史を歩んできたのだ。世界にはどんなスパイスがある? スパイスの効能は? 進化をつづけるスパイス事情を知り、健やかな日々を送るための1冊です。





TRANSIT最新号「世界のスパイスをめぐる冒険」

特集内容:インド、タイ、中国、バーレーン、沖縄、日本カレー狂時代、香辛料の歴史、薬草学、世界が恋する唐辛子、植物図鑑ポスター......etc.
定価:1,800円 + tax

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