熱帯アジアだけじゃない!
世界5大陸別にみた
主要スパイスベスト3
【53号 世界のスパイスをめぐる冒険】

COLUMN | 2021.09.17

スパイスは世界のいたるところで栽培できるわけではなく、その生産地はある程度決まっている。たとえばシナモンやペッパー、ジンジャーなどの需要が高いスパイスのほとんどは熱帯アジア原産。ほかの主要なスパイス生産地には、西インド諸島や中南米、地中海沿岸地方などがある。また意外にも、比較的寒い地域でもスパイスは生産されている! 世界をざっくり5大陸(諸島も含む)に分けて、各地の重要なスパイスを3つずつ紹介していく。
 
 
【ユーラシア大陸】
 
①カルダモン Cardamom
原産地:南インド、スリランカ
生産地:インド、パプアニューギニア、グアテマラなど

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カルダモンは世界でもっとも古いスパイスのひとつ。直径1〜2cmほどの大きさで、甘くて豊かな芳香があり、口に含むと爽やかな刺激と苦味を感じる。紀元前よりインドで栽培され、輸出された古代ギリシャや古代ローマでは、胃腸薬や口臭消し、香水の原料として使われていた。また、サハラ砂漠の遊牧民ベドウィンにはカルダモン入りのコーヒーを淹れて客をもてなす文化が古くからあるが、これは彼らが隊商貿易でスパイスを運んでいたことの名残だ。インドではカレーに入れられることはもちろん、北欧ではパンや菓子などの香りづけとしても使われている。
 
 
②キャラウェイ
原産地:中央ヨーロッパ、西アジア
生産地:フィンランド、ポーランド、オランダなど
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スパイスのなかでは珍しく、北欧など比較的気温が低い場所でも栽培されているのがセリ科の植物であるキャラウェイ。5000年前のスイスの居住跡から見つかっており、また古代ローマの美食家アピシウスのレシピにも登場するなど歴史が長いスパイスだ。クミンと形が似ているが全く別物で、爽快な香りと甘さ、ほろ苦さがあり、フルーツや野菜と一緒に使うとレモンのような味が出るのが特徴。ドイツやオランダのライ麦パンやチーズにはキャラウェイシードが入っていることもある。興味深いのは、キャラウェイにまつわるさまざまな民間伝承があることで、古代エジプトでは悪霊を追い払うためにお墓に入れたり、またヨーロッパの一部の国では恋人のポケットにキャラウェイを入れておくと浮気しないという言い伝えがあるなど、不思議な魔力をもつ(⁉︎)スパイス。
 
 
③クローブ
原産地:インドネシア・マルク諸島
生産地:インドネシア、マダガスカル、タンザニア

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刺激臭がありつつ、バニラのような甘い風味をもつ定番のスパイス。長らくインドネシアのマルク諸島のみで栽培されており、高価なものだった。古代中国の文献に記録が残っており、漢王朝などで皇帝に謁見する廷人や役人たちが口臭消しとしてクローブを口に含んだという。マルク諸島のクローブ栽培は、16世紀からポルトガル人により管理されたが、その後オランダ人の支配に変わり、さらにはフランス人によりクローブの種の密輸が始まるなど、ヨーロッパ諸国のスパイスの所有権争いに巻き込まれた。現在では世界中の料理に使われ、アメリカではハムに添えたり、ドイツではパンに入れて焼くことも。また、インドネシアではタバコの葉とクローブを2対1で混ぜた"クレテック"が人気だ。実は虫除けにも効果的で、ご家庭のG対策にも使えるのだとか......。
 
 
【アフリカ】
 
①クミンシード(ナイル川)
原産地:ナイル渓谷、地中海沿岸東部
生産地:インド、中国、シリア、イラン

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ガラムマサラなどミックススパイスに欠かせないスパイスのひとつ。ツンとした香りとムスク系の風味があり、インドでは使う前に潰して煎ることで香りを引き立てる。もともとはナイル川上流に原生しており、その後北アフリカやアジアなどで栽培されるようになった。5000年以上前のエジプト文明やミノア文明の頃にはすでに薬として使われていた歴史のあるスパイス。現在のヨーロッパではあまり使われていないが、インドではカレーなどに、北アフリカではソーセージやクスクス料理に、さらにアラブ諸国周辺ではひき肉料理や野菜料理などによくクミンが使われている。
 
 
②セサミシード(胡麻)
原産地:アフリカ大陸のサハラ以南
生産地:中国、インド、北アフリカ諸国、北中南米など

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日本を含めたアジアのイメージがある胡麻だが、実はアフリカのサバンナ地帯が原産地で、ナイル川流域で紀元前3000年にはすでに栽培されていたとされる。日本では縄文時代の遺跡から胡麻が発見されており、6世紀中頃の中国の仏教伝来とともに、本格的に食用として胡麻が日本に広まったと考えられている。煎ることでナッツのようなコクのある香りが生じる胡麻は、油を抽出するために育てられた最古の植物と考えられており、種には不揮発性の油が50%以上含有され、熱を加えても風味が劣化しない。また、実は胡麻の種類は3000以上ある。「アラビアンナイト」のセリフ「開けゴマ!」は、ゴマのさやが少し触れるだけで種子を飛ばす様子に由来するのだとか。
 
 
③ギニアショウガ
原産国:西アフリカ海岸沿
生産地:ガーナなど

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日本ではあまり馴染みがないが、胡椒のようなピリッとした辛みとカルダモンのような甘い香りが特徴で、大きさは胡椒のひとまわり小さいくらい。西アフリカやギニア湾岸地方で採れるショウガ科の植物で、ひとつひとつの種は茶色いピラミッド型。ベルベル人やユダヤ商人のキャラバンによりヨーロッパにもたらされ、またの名を「グレインズオブパラダイス(天国の種)」とも呼ばれる。こう呼ばれるようになったのは14〜15世紀に商人が売り上げ増を目論んで、その希少性を謳ったから。スパイスへの関心が高かった中世ではヨーロッパでも広く親しまれていたが、現在は西アフリカの国々の料理にミックススパイスの一つとして使われ、果実酒の香りづけやラム料理、ジャガイモやナスの炒め物などによく使われる。
 
 
【北アメリカ】
 
①バニラ
原産地:中米
生産地:マダガスカル、インド、スリランカ、タヒチなど

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甘く芳ばしい風味があり、アイスクリームやプリン、カスタードなどに加えられるバニラ。古くはメキシコのアステカ族が香料として使用しており、皇帝にバニラ入りのチョコレートドリンクを献上するのが習わしだったと記録に残る。16世紀後半になりヨーロッパでもチョコレートの香料として使われるようになるが、1841年まではメキシコのみで栽培。しかしその後人工受精に成功し、世界中で栽培されるようになった。1874年にはドイツ人が風味を合成して「バニリン」を生み出し、今ではそちらが主流になっている。現在流通する97%のバニラ風味食品が化合物なのだから、私たちは天然のバニラをまだ食べたことがない可能性も......!
 
 
②ピンクペッパー
原産地:南アメリカ
生産地:南北アメリカ、太平洋、インド洋の島々

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コショウ科のブラックペッパーやホワイトペッパーとは異なり、ウルシ科のコショウボクという植物の果実を乾燥させたもの。松の香り、フルーティな甘さなど芳香はあるが、刺激はなく主に料理の彩りに使われることが多い。美しい赤みはカルパッチョやステーキ、サラダなどによく映える。また、ジビエや油っぽい肉・魚料理との相性もよく、軽くつぶして振りかければスッキリした風味に。フランス領のレユニオン島(旧ブルボン)のみで栽培されている希少なスパイスだ。
 
 
③ジュニパー
原産地:東ヨーロッパ
生産地:イタリア、フランス、ドイツ、北米など

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ヨーロッパやアメリカ全土に原生しているジュニパー。松の香りと甘みをもち、ジンなどのスピリッツ類を蒸留する際の香り付けによく使われている。実はジンという名前は、オランダ語でジュニパーを意味する「ジェネバ」に由来している。北半球一体に生育するヒノキ科の常緑針葉樹であり、熱帯で育つスパイスが多い中、温帯で生育する数少ないスパイス。ジュニパーベリーは黒紫色、大きさは小さなえんどう豆くらいで、柔らかいため簡単に砕くことができる。ジュニパーには古来、災いから身を守る力があると信じられており、聖母マリアはヘロデ王の兵士から逃れるために、幼いキリストをジュニパーの生垣に隠したと言い伝えられている。また、1870年にフランスで天然痘が流行したときに、病院などで空気を浄化するためにジュニパーの枝が燻されたとも。実際に抗炎症効果があることが確認されている。ヨーロッパの肉料理によく使われており肉の臭みを消しさらに柔らかくする効果があるため、ジビエなどとも相性が良い。
 
 
【南アメリカ】
 
①チリ
原産地:中南米
生産地:中国、東南アジア諸国、メキシコ、エチオピアなど

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形や色、大きさ、辛さ、風味もさまざまな種類があるナス科トウガラシ属の果実。マイルドなものから激辛まで、赤やオレンジ、黄、紫、緑などおよそ200種類のチリが確認されている。一般的には、丸くて大きく、皮が厚いもののほうがマイルドで、小さくて皮が薄く、先端が尖ったものほど辛いとされている。中華料理に多用されているイメージがあるが、世界に広まったのは15世紀ごろ。大航海時代にスペインがチリの産地である中南米を征服したことにより世界中で流通し、いまでは世界人口の4分の1の人びとが食す。ビタミンC、Aが豊富で食欲増進、発汗、消化促進、不眠改善など様々な薬効もあるが、大量に摂取すると胃腸の炎症の原因となるのでご注意を。
 
 
②オールスパイス(マヤ文明)
原産地:中米、西インド諸島
生産地:ジャマイカ、メキシコなど

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おもにジャマイカで生産されているスパイスで、別名をジャマイカペッパーとも呼ぶ。大航海時代にコロンブスによって発見され、最初はペッパーと勘違いされていた。クローブ、シナモン、ナツメグの香りを合わせたような爽やかな甘みと苦味があり、料理や菓子に広く使われ、ほかのスパイスとの相性も良い。マヤ文明ではミイラの防腐剤として遺体にオールスパイスが詰められたという説も。1655年にイギリスがジャマイカを占領後、人工栽培が始まり、他の熱帯地域でも生育が試みられたが不成功に終わっている。現在アメリカ大陸のみで栽培されている唯一のスパイス。
 
 
③アナトー
原産地:カリブ海地域、南米の熱帯地域
生産地:ブラジル、インド、フィリピン、アフリカ諸国など

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ベニノキの種子を乾燥させたものであり、胡椒のような爽やかさとスモーキーな土っぽさのある風味を持つが、鮮やかな赤・橙色の色素があるため主に着色料として使われている。メキシコなどではソースやタコスに、欧米ではチーズの着色に、日本ではハムやソーセージの着色に用いられている。「貧乏人のサフラン」と呼ばれ、高価なサフランの代わりの比較的安価な着色料として世界中に広まった。古代マヤ文明では料理以外にも、戦闘用のボディペイントに使われていたとも。
 
 
【オセアニア】
 
①レモンマートル
原産地:オーストラリア
生産地:オーストラリア、マレーシア、中国など

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オーストラリア北東部の亜熱帯多雨林に自生しているハーブで、「レモンよりレモンの香りがする」といわれるほどレモンの香りが強い。「ブッシュフード」と呼ばれるアボリジニの人びとが古くから重用しているオーストラリア固有の食材のひとつで、数千年前より料理の香りづけや薬として使われてきた。主に乾燥させた葉を粉砕して使い、シャープな柑橘風味とまろやかでほのかなユーカリのような香りがする。レモンと違って酸味がないため、乳製品や飲料、調味料など幅広く活用され、近年は世界中の飲食業界で人気が高まり、供給が追いつかないほどに。
 
 
②ワトルシード
原産地:オーストラリアの乾燥地帯
生産地:オーストラリアなど

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こちらもオーストラリア在来のアカシア属の植物オーストラリア・アカシアの種であり、ブッシュフードのひとつ。アボリジニの人びとが4000年前より主食として来た穀物で、焙煎したコーヒー豆にスモーキーな風味が加わったような独特な香りをもつ。ローストすることで料理や菓子などに合い、現地では製粉したものをパンケーキやスコーンにすることも。栄養価が高く、低糖質であるため、近年小麦粉に変わる穀物として注目が高まっている。
 
 
③ブッシュトマト
原産地:オーストラリア内陸部
生産地:オーストラリアなど

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オーストラリアの乾燥地帯で育つナス科の低木の果実。1〜3㎝ほどの黄色やオレンジの実で、見た目はレーズンに近い。焦がした砂糖やチョコレートのような香りがして、後味にはほろ苦さが残る。数千年前からアボリジニの人びとにより活用されてきたスパイスで、成長が早く火事や大雨の翌年に大量に身をつける。オーストラリアでは、今でも脂肪分の少ないカンガルーの肉などに合わせたり、またジャムや調味料にして使われている。
 
 



  
アジアで生産される定番のスパイスのほかに、意外にも多くの種類のスパイスが大陸ごとにあることに驚きだ。また、それぞれのスパイスの世界への広がり方も場所によって異なり、スパイスの流通を見ることで世界史の理解が深まりそう。TRANSIT53号には、世界のスパイスを56種類紹介&イラスト化したポスター付き。ほかのスパイスについてもぜひチェックしてほしい。
 
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