旅の記憶とスパイス料理 #1
ラオスの山のごちそう、オーラム
【53号 世界のスパイスをめぐる冒険】

COLUMN | 2021.09.30

『TRANSIT53号 世界のスパイスをめぐる冒険』の「旅の記憶とスパイス料理」という企画では、プロの料理人の方々に異国の地で出合ったスパイス料理を紹介していただきました。

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 今回ご紹介するのは、ラオス・カンボジア・ベトナムの古典料理を中心に研究を行う田中あずささんが、ラオスで出合った一品です。
 
 旅の情景とともに記憶される、あのとき食べたあの味。本誌ではレシピも合わせて紹介していますが、本記事ではエッセイ部分を抜粋してお届けします。


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「山のごちそう、オーラム」

 
 旅先では、地元の人が昔から食べている家庭料理を知りたいので、外食選びは慎重になるし、気に入った場所が見つかれば、滞在中はとにかくそこへ通い詰める。店の人に「あなたまた来たのね(笑)」と思わせるくらい、好きな店に顔を売っておくのは、本当のところで言葉で通じ合えない外国人同士がお互いの信頼関係を作り、打ち解けるひとつの方法のようにも思う。
 
 私の外食選びはだいたい三択で、「家族経営の食堂」「市場の屋台」「田舎の人の家」のいずれか。ちなみに後者にいくほどありがたみが増す。市場の屋台は開いている時間と席が少ないし、人の家はそもそも、おうちに上がりこんでごはんを食べさせてくれるほどの関係性を作るのがたいへんだから。
 
「オーラム」というごはんのおかずは、私にとってはいちばんありがたい体験である個人宅で何度も教わった典型的なラオスの家庭料理だ。蒸したもち米を握り食べる手食が正餐のマナーであるラオスの食卓では、スープ料理というより、ごはんにつけるディップのような存在。
 
 オーラムに欠かせない「サカーン」を知ったのは、この料理がきっかけだった。枝を切って束ねた状態で売られており、別名「ペッパーウッド」「チリウッド」とも呼ばれている。小さな拍子木のように切って煮込むと、胡椒のようなピリっとした味がほのかに立ち、一見野菜シチューのような煮込みに、スパイスのアクセントを加えてくれる。ちなみに、サカーンはフレッシュスパイスで保存があまりきかない。保存するならラップにぴったり包んで冷蔵庫で3週間、冷凍なら1カ月と教わった。
 
 ラオスは国土の約8割が山林という国土特性から、山の食材を使うのがとても上手。国は違えど、やはり山国である長野県出身の私は、ラオスの山あいならではの、サカーンや山椒の実などのスパイス類や山菜が多様に使われる古典料理に、他人事と思えない親近感を感じている。
 
田中あずさ(たなか・あずさ) ● 料理家、コピーライター。旧仏領インドシナの食文化をテーマに、東京都内で1日1組の料理教室「アンドシノワーズ」を主宰。ラオス・カンボジア・ベトナムの3国のなかでもとくに山あいの古典料理の研究を行う。



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web記事ではここまでのご紹介。
スパイスのルーツを遡れば、古代エジプトではミイラの保存に用いられていたり、中国では漢方薬として医療に処方されてきた歴史もある。大航海時代にはスパイス原産地の利権をめぐりスパイス戦争なるものも巻き起こった。私たち人類は、スパイスとともに人生を、歴史を歩んできたのだ。世界にはどんなスパイスがある? スパイスの効能は? 進化をつづけるスパイス事情を知り、健やかな日々を送るための1冊です。




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