旅の記憶とスパイス料理 #3
インドのスパイシーな
カリミリフィッシュティッカ
【53号 世界のスパイスをめぐる冒険】

COLUMN | 2021.10.05

『TRANSIT53号 世界のスパイスをめぐる冒険』の「旅の記憶とスパイス料理」という企画では、プロの料理人の方々に異国の地で出合ったスパイス料理を紹介していただきました。

 
 今回ご紹介するのは、アパレル業界を経験した後、インドを放浪しカレーに目覚めた山登伸介さんが、ムンバイで出合った一品です。
 
 旅の情景とともに記憶される、あのとき食べたあの味。本誌ではレシピも合わせてご紹介していますが、本記事ではエッセイ部分を抜粋してお届けします。


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「スパイシーなカリミリフィッシュティッカ」
 
 毎年決まって2月に1カ月ほど店を閉め、インドを訪れます。いくつかの地域を回り、現地の料理を食べ歩いたり、レストランや食堂の厨房に入り研修させてもらったり。仕事にかかわることがインド旅の主目的ではあるものの、年に1度インドに身を置くというルーティンは、日本での忙しない日常をリセットしてくれて、自分によいリズムを生んでくれる欠かせない旅でもあります。
 
 2020年の2月、僕はムンバイに滞在していました。ムカラコーダ地区にある地元で有名なシーフードレストランでのこと。いくつかの料理を頼み、どの料理もクオリティが高く大変おいしかったのですが、とりわけ印象的だったのが、現地では「ラワス」と呼ばれるインディアンサーモンのタンドール焼きです。
 
 見た目はとてもシンプル。ただ、料理の表面にはやたらと黒い粒々が。よく見ると黒胡椒の粗挽きがふんだんに使われていました。食べてみるとこれが予想を上回るおいしさ! 魚の身はふっくらで、ときおり嚙み締める粗挽きの黒胡椒が味のひきしめにとても効果的に働きかけています。チキンではなくフィッシュというところも、インドの西海岸に位置するムンバイらしい料理ですね。
 
 インド料理においてスパイスは複数の組み合わせの妙だと思っていましたが、さすがスパイスの王様といわれる黒胡椒。インパクトのある香りと刺激は、単体でも大きい存在感を放つ様を改めて思い知らされました。
 
 その昔の大航海時代、金と同等に扱われていたほど貴重な黒胡椒は今では世界中、そして日本でも身近なスパイスとなりました。日常的にさまざまなスパイスを扱うなかで逆に存在感が薄くなっていたのかもしれないですね。ただこの料理をきっかけに、店の厨房には軽く煎った黒胡椒の粗挽きが常備され、王様の活躍はしばらくの間つづきそうな予感がします。

 
山登伸介(やまと・しんすけ)●アパレル業界を経験した後、インドを放浪しカレーに目覚める。エスニック料理やカレーの移動販売、銀座のインド料理専門店〈グルガオン〉を経て、2013年に三軒茶屋〈シバカリーワラ〉をオープン。



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web記事ではここまでのご紹介。
スパイスのルーツを遡れば、古代エジプトではミイラの保存に用いられていたり、中国では漢方薬として医療に処方されてきた歴史もある。大航海時代にはスパイス原産地の利権をめぐりスパイス戦争なるものも巻き起こった。私たち人類は、スパイスとともに人生を、歴史を歩んできたのだ。世界にはどんなスパイスがある? スパイスの効能は? 進化をつづけるスパイス事情を知り、健やかな日々を送るための1冊です。




TRANSIT最新号「世界のスパイスをめぐる冒険」

特集内容:インド、タイ、中国、バーレーン、沖縄、日本カレー狂時代、香辛料の歴史、薬草学、世界が恋する唐辛子、植物図鑑ポスター......etc.
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