旅の記憶とスパイス料理 #2
アゼルバイジャンの郷土菓子、シェチェルブラ
【53号 世界のスパイスをめぐる冒険】

COLUMN | 2021.10.01

『TRANSIT53号 世界のスパイスをめぐる冒険』の「旅の記憶とスパイス料理」という企画では、プロの料理人の方々に異国の地で出合ったスパイス料理を紹介していただきました。

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 今回ご紹介するのは、世界中の郷土菓子を研究する林周作さんが、アゼルバイジャンで出合った一品です。
 
 旅の情景とともに記憶される、あのとき食べたあの味。本誌ではレシピも合わせてご紹介していますが、本記事ではエッセイ部分を抜粋してお届けします。


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「郷土菓子、シェチェルブラ」
 
 日本では聞き慣れないので、まずはアゼルバイジャンってどこ?って思う人が大半でしょう。僕も訪れるまでは、意識したこともないような場所でした。

 24歳くらいのとき、自転車でフランスから日本を目指す旅の途中で、アゼルバイジャンに立ち寄りました。イスラームの国ということもあり、街並みや言語の雰囲気がトルコとよく似ています。かつてシルクロードを行き来していた商人が利用した宿場が多く、その名残も残されていました。
 
 餃子のようなフォルムをしたお菓子「シェチェルブラ」は、アゼルバイジャンではとてもメジャーな存在。現地のどこのお菓子屋さんでも売られています。欠かせないのは、ザラザラした粗いグラニュー糖と砕いたナッツ、そしてスパイスの女王と呼ばれるカルダモンです。一口かじると、ふんわり甘く爽やかなカルダモンが香って、粒の大きい砂糖が口の中でザクッと砕ける食感がおもしろい。紅茶が飲みたくなる味ですね。
 
 アゼルバイジャンの人は、1日に10回くらい飲んでるんじゃないかな?ってくらい紅茶好きで、ありとあらゆる時間にティータイムがありました。ロシア流に、濃く淹れたティーをお湯で薄めて飲むというちょっと不思議な方式で、穏やかに過ごしているんです。
 
 ちなみにシェチェルブラ、実際に作るのは少し難易度が高め。でもお菓子作りが好きな人には作りがいがあると思います(笑)。僕自身、簡単に作れてしまうより、難しい工程があるお菓子が好き。皮がやわらかいのでコツは素早く包むことです。ピンセットのような道具で、パイ生地の模様づけをする工程も楽しいです。
 
 この特徴的な模様も偶像崇拝がタブーで、人や動物が描けないために独自に幾何学模様が発展したイスラーム圏ならではの特徴ですね。これまであらゆる郷土菓子に出合ってきましたが、このお菓子の姿形の愛らしさとユニークさには、唯一無二の魅力を感じています。(談)


林周作(はやし・しゅうさく)●「郷土菓子研究社」主宰。2012年から3年半、世界各地を回り、郷土菓子を実際に食べる旅に出る。2016年、東京・神宮前に〈Binowacafé〉をオープン。 



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web記事ではここまでのご紹介。
スパイスのルーツを遡れば、古代エジプトではミイラの保存に用いられていたり、中国では漢方薬として医療に処方されてきた歴史もある。大航海時代にはスパイス原産地の利権をめぐりスパイス戦争なるものも巻き起こった。私たち人類は、スパイスとともに人生を、歴史を歩んできたのだ。世界にはどんなスパイスがある? スパイスの効能は? 進化をつづけるスパイス事情を知り、健やかな日々を送るための1冊です。




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