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文学で旅する大邱(3)

Travelog | 2020.01.16
  • ISSUE
  • ROUTE大邱文学館/香村文化館~金源一(キム・ウォニル)文学体験館~チェッパン・i(アイ)

  • PHOTOGRAPHER岡崎暢子
TRANSIT42号で文学や詩についてのアドバイザーとなってくれた韓国専門出版社クオンがプロデュースする「文学で旅する韓国」ツアーのレポートもこれで最終回。いよいよ"なぜ、大邱で文学ツアーなのか"が明らかに。韓国文学が過去最高に盛り上がるなか、韓国旅に興味が湧いてきた人は必見です。

文学で旅する(「文旅」)大邱。前回前々回と「文旅」での観光要素を中心に紹介してきたが、今回はようやく文旅の骨の部分をご紹介する。


文旅は要所要所でその道の専門家が解説をしてくださるのも魅力だが、この日の前半は大邱大学のヤン・ジノ教授が、大邱の歴史と文化について解説してくださった。以下、トリビア的な話はだいたいヤン・ジノ教授の受け売りである(えへへ)。





そもそも大邱と文学? 正直、最初は全然ピンとこなかったが、大邱は古くから学者や文化人を多く輩出してきた土地だったそうだ。さらに、この地の文化の発展に、その地形と戦争が関係しているという。



大邱の北側をとうとうと流れ、釜山、そして海へと注ぐ、韓国最長の大きな川・洛東江(ナクトンガン)。1950年に勃発した朝鮮戦争のとき、この洛東江が北朝鮮軍の進撃に対するバリアとなった。ソウルから戦火を逃れた作家や画家など多くの文化人が、当時、韓国の東南部でもっとも栄えていた大邱に避難し、とどまったことで、この地の文化が一斉に花開いた。






大邱は、16世紀に造られた大邱邑城(テグウプソン)を中心に栄えてきた。日本統治時代の1905年、邑城に隣接するように京釜線の大邱駅が開通し、さらに1909年に邑城も解体され、香村(ヒャンチョン)という新しい街が新設されると、大邱駅前は人とモノが集まる中心地として、いよいよ活気を帯びた。



2014年にオープンした「大邱文学館/香村文化館」は、その大邱駅前近くにあった大邱初の銀行である「鮮南商業銀行」だった建物をリフォームした、1900~1960年代の大邱の町並み、歴史を紹介する文化施設。






1~2階は香村文化館、3~4階は大邱の文学史にまつわる資料を収集、保存した大邱文学館になっている。重厚な外観から入るのをためらうかもしれないが、中は見どころがたくさんで、時間がいくらあっても足りないくらい。大邱に行くならぜひ立ち寄るべきスポットだ。



香村文化館は韓国ドラマや映画で見るようなノスタルジックな映画館や居酒屋などが立ち並ぶ当時の町並みが再現されており、ちょっとしたテーマパークのよう。居酒屋にはテーブルに食事サンプル的なものもあったりして細かい。






フロアの一角には懐かしの制服がぶら下げてあったので、ここ数年、韓国で流行している懐かしの制服のコスプレをしてSNS受け必至の記念撮影を楽しむこともできるようだ。というか、それ目的で来場する客も多いような気もする。






そんなウキウキフロアからエレベーターで上の階に上がると大邱文学館だ。民族抵抗詩人の李相和(イ・サンファ)など大邱ゆかりの文人の作品から1960年代までの近代文学の歴史や文学作品が紹介されている。






文学館といっても全く堅苦しくなく、展示の仕方もやたらおしゃれで洗練されているので、韓国の文学者に明るくなくても十分楽しめたが、韓国の大学で韓国文学を専攻し、このツアーのホストで下見にも訪れているキム・スンボク社長が一番興奮していて、私たちに「〇〇の写真があるよ!」「〇〇の初版本だよ!」と目を輝かせて説明してくださるので、なんだかこちらも一緒に楽しくなって満足度が上がりました、ハイ。






帰り間際、ロビーの一角にある小さなスーベニアショップのハンドメイド小物を見つけて、みんなガラスケースに張り付いた。






スーベニアショップから引きはがされて文学館を出ると、次の目的地である金源一(キム・ウォニル)文学体験館までの1キロくらいの道のりは徒歩で。ヤン・ジノ教授が古い家の間を縫うように張り巡らされた細い路地をすいすいと案内してくださった。









香村の西側の北城路(プクソンロ)という地域は、日本統治時代に日本人街があったところで、今も日本家屋の雰囲気を残した建物もちらほらあるほか、現在は地元のご老人たちのダンスホールとして活用されている建物が過去に文人たちが使った建物だったりと、路地裏の片隅に当時の活気の残り香を感じることができる。しかし現在、再開発が急ピッチで進んでいるので興味のある人は今すぐにでも飛んだほうがいい。






歩いているとあっという間にたどり着く、金源一(キム・ウォニル)文学体験館は、薬令市の中にある。先日薬令市を歩いていた時にすでに金源一の小説の主人公である「キルナム君」の像には遭遇して写真撮影も済ませていたので、到着したときには「やっとお宅にお邪魔できたね」という気分だった。






ここは、大邱で育った作家の金源一の代表作『深い中庭のある家』をテーマにしたオープンしたばかりの小さな資料館。韓国の伝統的な家屋の作りで、キルナムの部屋の模型や、登場人物紹介、金源一の書斎を再現した部屋などがある。






『深い中庭のある家』は、朝鮮戦争後の厳しい時代を、少年キルナムの目を通して描かれた長編小説。朝鮮戦争後、父が単身で北へ行ってしまい、残されたキルナム家族が苦労しながら大邱で行きていく日々を描くことで、当時の世相・思想が垣間見られる。






文化解説士の方によると「ひと昔前は秋の夜長に誰もが読んだ」ほど、韓国ではかなりポピュラーな小説だという。説明を聞いたら、7割くらいは作家の体験を元に書かれているそうで、韓国の近代史にも興味があるのでそれはぜひ一度読んでみたいなあと思っていたところ、キム・スンボク社長から「現在クオンで翻訳本を準備中ですので、お楽しみに」とのアナウンスが。うーん、キム社長は本当に営業上手(笑)。確かに本を読んでから行くとより楽しめるのは間違いない。






さて午後は、大邱にある出版社の「ハギサ」と独立系出版社の「ハンティジェ」の2社を訪問した。会社訪問なんて文旅ならではのデスティネーションである。どちらの出版社の方も使命感を持って本づくりに取り組んでいる姿勢が素敵で、かつ、働いている人たちがプライベートもきちんと大事にしているようだったのが印象的だった。以前、クオンの案内でソウルの出版社も訪問したことがあるが、どの編集者も「最近は残業しなくなった」と言っていた。仕事ができる人はオンオフの切り替えがうまい......。






最後は、マンションが立ち並ぶ敷地内にある新しい書店「チェッパン・i(アイ)」を訪問。こちらは教師などの本業をもつ30代の女性3人と地域住民2人の5人が、仕事の傍らに情熱を注ぎ込み、国の支援も活用してオープンさせた書店。ソウルなど都市部でも見かける"こだわりのブックストア"の類だが、ユニークさが群を抜いていた。






置いてある本は、話題の本もちろん一般書店より吟味された面白そうなものが並び、絵本や児童書など子ども向けの本も充実している。さらに、店内に中二階建ての読書スペースを作ったところ、まずは近所のちびっ子たちが毎日やってくるようになり、つられて大人も来るようになったとか。私たちが訪れたときも、子どもたちが好きな絵本をもって2階に上がって遊んでいた。






運営方法もユニークで、会員になれば閉店後の夜遅い時間でも自分で鍵を開けて自由に本が読めるとか、店休日の週末には会員に店ごと貸し出すとか、あれこれ斬新なことばかり。運営は軌道に乗ったとのことで、私たちが訪れた数日前にフロアを増床したばかりとか。



店内の雰囲気のせいか、今すぐにでも本が読みたくなる空間だった。私たちツアー一行も、思い思いに本を"どさどさと"購入しまくり、チェッパン・i(アイ)のメンバーたちと大邱の名物「蓮の葉ごはん」の韓定食でディナーをともにし、大邱の「文旅」を締めくくった。






2020年もクオンでは「文旅」を計画しているそうなので、文学に興味がほんのちょっとだけあれば十二分に楽しめる「文旅」に参加してみては?


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お詫びと訂正