文学で旅する大邱(1)

Travelog | 2019.12.11
TRANSIT42号の韓国・北朝鮮特集で文学や詩についてアドバイザーとなってくれたのが、東京・神保町にて、韓国語書籍と韓国関連書籍を専門に扱うブックカフェ「チェッコリ」を運営している独立系出版社クオン。クオンが主催する「文学で旅する韓国」ツアーに参加した、翻訳者でありライターの岡崎暢子さんから「大邱ツアー」のレポートが届きました。

クオンは書籍の出版やブックカフェ経営にとどまらず、2017年に光州市、2018年には済州島と、韓国の近代史と文学にまつわるテーマ旅行も毎年企画しており、密かな人気を集めている。先日催行された、4回目のツアーの行き先は大邱(テグ)市。最近、韓国通の人々の間で人気急上昇中のデスティネーションだが、観光地としてもコンパクトな地方都市で、一体どんな学びに出会えるのか。






韓国第3の都市と呼ばれている大邱。一体何をもって第3なんだろうと思って検索してみたが、最近は巨大ハブ空港を擁する仁川(インチョン市)とその座を競い合っているようだ。急速に発展中の仁川市と対照的に、大邱市は長い歴史の中でその役割を担ってきただけあり、新旧の融合具合と2泊3日あれば主要な観光とショッピングが十二分の満喫できる町のコンパクトさが旅行者には魅力だ。








大邱の観光といえば、町のど真ん中で韓方(韓国の伝統医療)の薬草のよい香りを漂わせている「薬令市」(薬市場)は定番のスポット。この地に薬令市がつくられたのは朝鮮王朝時代の中期。1658年に、時の王である孝宗の命により開設されたのが始まりだとか。
薬令市のエリアにある「大邱薬令市韓医薬博物館」(9:00〜18:00、月曜休館)。大邱の薬令市の歴史がパネルや模型で展示してある。入館は無料なのでサッと入ってみるのもいいかも。中では韓方のフットバス(約20分、5,000ウォン)体験のほか、韓方茶などの販売もあり気軽に大邱らしいお土産を購入することもできる。






見どころが接近しているので、歩いているとすぐに「近代路地」というテーマ路地に到着。ここに慎ましくもこざっぱりとした古宅がある。日本の植民地下で東京でも学び、当局にスパイ容疑で拷問を受けるなどした抵抗詩人の李相和が晩年を過ごした韓屋だ。「奪われた野にも春は来るのか」という有名な彼の詩を刻んだ石碑もあり、訪れた人がスマホで撮影していた。無料で観覧でき、当日も修学旅行生で賑わっていた。






ところで、この李相和古宅の保存にまつわる面白い話をガイドさんから聞いた。古宅と道を隔てた所に新しいマンションが建っているのだが、マンションの駐車場を、もともとはこの古宅の土地に建設する予定だったそう。しかし、大邱市民による古宅の保存運動により、結局、駐車場は近代路地の地下に建設された。それを知って道を歩くと、大邱市民の李相和古宅への愛情に、自然と胸が熱くなる。





そんな話を聞きながら歩いてるとレンガ造りの教会にたどり着く。1902年に建てられたという桂山聖堂だ。ステンドグラスは当時大邱で宣教活動をしていた神父が、自分の故郷フランスから資材を持ち込んだという。祈りを捧げる人たちの邪魔にならないように、そーっと見学。ステンドグラスが美しい。








桂山聖堂は朴正煕前大統領が結婚式を挙げた教会としても知られている。ちなみに娘の朴槿恵前大統領も大邱市生まれ。思想的には大邱は保守派だと言われている。韓国のデモのニュースなどを見ると、中高生と思しき若者の姿もよく見るが、1960年にも、大邱の高校生たちが独裁政権に反対し、立ち上がった2・28民主運動と呼ばれる事件があったらしい。





次は、「2・28民主運動記念館」へ。韓国の民主主義革命運動では、ソウルの大学生が中心となった1960年4月に起きた四月革命(4・19革命)がよく知られるが、それよりも前に大邱の各高校の生徒たちが立ち上がっていた。「2・28民主運動記念館」では、高校生たちの民主運動の記録や、参加校の校章などが展示されている。こういう施設が身近にあることで、現代の子どもたちにも自由のありがたみを自分事としてとらえる素地が出来上がっていくのだろう。





さてさて、韓国旅行に来たらうまいものは外せない。肉が好きなら大邱は、うまい肉がソウルより相対的に安く食べられるのでおすすめ。大邱にはチムカルビ通りなるミラクルな通りがある。「チム」とは蒸したという意味で、甘辛のたれに付け込んだカルビを柔らかく蒸し煮したのがチムカルビ。大邱の名店というナギョンチムカルビで、名物に舌鼓を連打ですよ、ポンスポーン。





韓国料理と日本料理の決定的な違いは、器にあると思う。見よ! アルミの洗面器(みたいな器)に大胆に盛られたカルビの迫力を。ニンニクのきいたピリ辛のたれがしみしみの柔らかいカルビ......ああ、うまい、うますぎるよ! サンチュで包んでも、ごはんと一緒でも、ウマウマ。最後は洗面器にご飯を投入してビビンバにして食べるのが一般的なのだそうだが、肉もごはんもハイスピードで食べ終えてしまったので体験できず(笑)。ああ、大邱万歳! 旅はまだ続くよ。


お詫びと訂正